天祥院英智
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※この物語はこれ↓の続編です。
天祥院英智とバレンタイン
-「ふーんだ。なにさ英智くんめ」
三年前のあの日、「僕のお嫁さんになる気はない?」と告げられ本命チョコも口にしてくれた彼。天祥院英智は、名前とは幼稚舎の頃から互いを知っている仲で、片想いの相手でもあった。いや…過去形にしてしまうのは間違いだ。未だに英智は彼女の憧れの相手なのだから。その英智がつい最近お見合いをしたらしい。との情報が舞い込んできたせいで名前は盛大に落ち込んでいると同時に自暴自棄になっていた。あの台詞を本気にしていたのは自分だけで、彼からすればほんの冗談にすぎなかったのだろう。確かに天祥院財閥と自分の実家とじゃ釣り合いが取れないだろうと理解しているが、英智が見合いをした相手というのが姫宮の娘で、しかもかなり小さな女の子と知ったのだ。モヤモヤとした嫉妬心に支配されて、泣きたくもないのに涙が出てくる。涙を拭ったその刹那、部屋のドアがノックされた音が響き、返事をした。
「お茶をお持ち致しました」
「はい…って、えぇ!?英智くん…?」
ティーセットの乗ったワゴンを手に部屋に現れた人物こそ、天祥院英智その人で。学校が別々になって以来、会うのは初めてだったせいで、彼女は言葉が出なかった。名前が、アイドルの彼を一方的に見つめていることはあったが、きっとそのことを彼は知らない。久しぶりに対面した英智。昔よりも更に魅力的になって、遠い存在になってしまった彼。泣いた後なんていうことがバレないように、何でもないような笑顔を浮かべて彼を一瞥する。
「なんで英智くんがうちに…?何か用事?」
「用事なんて大層なものじゃないよ。僕はただ名前ちゃんに会いたくなったんだ」
ティータイムにクッキーを食べていた時に急に思い出したと彼は語る。「名前ちゃんてば、僕宛てに作ったクッキーを自分で食べたりなんかしてさ」と、あの日の出来事を蒸し返されて彼女は恥ずかしくなって思わず俯いた。それくらいでわざわざ会いに来なくてもよかったんじゃないか。と、素直になれない自分が顔を出す。「そんな昔のことなんて忘れてよ」と。ツンケンした態度を見せる彼女に近寄り、その顔をジッと見つめた彼に「どうして泣いていたのかな?」と耳元で囁かれて彼女は固まった。「英智くん距離が近い。べつに泣いてないもん」と苦し紛れに呟く彼女の声を聞いて、英智は「可愛いなぁ」とくすくすと笑っていた。「ほら、紅茶を淹れたよ」と、二人きりの空間にアールグレイの芳香が広がる。
「天祥院のご子息にこんなことさせて、私叱られちゃうだろうな」
「大丈夫だよ。未来の夫が妻の為にお茶を淹れただけだろう?」
英智の口からとんでもない台詞が飛び出した。この人、私をからかって遊んでるんじゃないだろうか。と、その言葉を受け流して紅茶を飲む彼女。何のリアクションもないその様にしびれを切らした彼は不貞腐れたように呟く。「名前ちゃんはもう、僕のことなんか好きじゃなくなってしまったかな?」と。バレンタインに本命をくれたからといって、彼女が自分を愛していると思い込むなんてとんだ自惚れかもしれないな。と自嘲的な笑みが滲んだ。そんな折、ついに彼女が口を開く。
「英智くん。姫宮さんのとこの娘と結婚するんでしょ?私のこと愛人にでもしようっていうの?」
あぁ…なんて可愛くない。否、英智の想いは完全に空回っていた。彼女の「好き」が聞きたくて核心に触れずにいたのが悪いのだろう。今にも部屋を出ていってしまいそうな彼女を腕の中に閉じ込めてきつく抱きしめる。「愛人なんてとんでもない。僕のお嫁さんになってよ」と、あの日有耶無耶にされたプロポーズをやり直す。すっぽりと収まってしまう小さな身体、中々目を合わせてくれないいじらしい反応が愛しくて、胸が締め付けられる。しかし、その気持ちとは裏腹に「英智くんなんか嫌いだもん」と告げられて少し悲しくなった。
「嫌いな奴に抱きしめられてるのに、ちっとも抵抗しないよね?」
「あぁ…もう、そうやって…、」
「からかってるんでしょ?」という言葉は告げられることなく英智の唇が重なって。「嘘つきな唇は塞いでしまおうね」と、王子様のような口付けだったらどんなによかったか。舌を絡め取られ、後頭部に手を回されたそれはとても淫らな口付けだった。大好きな英智との初めてのキス…嬉しい筈なのに唐突すぎて思考が追いつかない。離して、と胸板を押し返すと彼の唇が、腕が離された。愛おしさの中に寂しさが混ざったような視線に耐えきれなくなった。私、怒ってます。とアピールするようにプクっと頬を膨らませて彼女が責めるような物言いをした。
「どうしてキスしたの…?」
「あぁ…ごめんごめん。キス以上のことをお望みかな?」
「ふ、ァ…っ」
抱き寄せられて首筋を吸われた彼女から甘い声が漏れる。握りしめられた彼のシャツは大きく波を打っていた。抵抗しても英智は決して腕を解いてくれなかった。「君のご両親は僕らの婚約を認めてくれているんだけど、名前ちゃんは僕のこと嫌いなんだもんね?」と、英智は名前の「好き」が聞きたくてしょうがなかった。「僕は名前ちゃんを愛してるんだけどなぁ」と哀愁を漂わせている彼の服の袖をクイっと引っ張った彼女は真摯な眼差しで彼を見上げた。
「私が、今も昔もずっと英智くんのこと大好きだって知ってるくせに」
-「僕が他の人と結婚するのが嫌で泣いてたなんて、本当に可愛いよね」
END