天祥院英智
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―この日は休日であり、ジャージにパーカーといったラフな格好でリビングで珈琲を飲んでいたが、そんな平和な休日はある人物の思惑で簡単に崩れ去ってしまった。インターホンの音に反応し、玄関の扉を開ければ黒服の男性が。「なんの御用でしょうか?」という問いかけに答えてもらうよりも早く、彼に連行され車に乗せられた。一瞬、事件かと思ったけれど、私を攫ったってなんのメリットもないだろう。運転手付きの高級車と黒服の男性を見て、少なからず推測はついていた。この件は生徒会長の天祥院英智絡みだと…。案の定「突然で申し訳ございません。しかし、英智様が楽しみにしていらっしゃるもので…」と予想通りの人物の名前が聞こえた。こんな高級車には似つかわしくない。と、自らの格好を見下ろして溜め息をついた。こんなパジャマみたいな姿で皇帝陛下の前になんて出れるもんじゃない。「あの。私…こんなみっともない部屋着で天祥院家に連れて行かれたくないんですけど」と一度着替えて、化粧してきていいですかというような遠回しな抵抗をしたけれど彼は事も無げに笑うだけだった。
「ご心配なく。着きましたら、メイド服をお渡し致しましょう」
「メイド服!?」
驚いている私をよそに、更なるネタ明かしがされていく。「体調を崩された英智様が熱に浮かされたようにあなたの名前を呼んでいましたので、お世話して頂こうと思い、お連れしたというわけです」と。会長また体調不良なのか。と心配にはなったが、お城のような外観の天祥院家に到着し、圧倒された私は深く考えることを放棄した。さすがに部屋着スタイルでいるわけにもいかず、人生初メイド服である。しかも、長いスカートではなく所謂絶対領域ってやつで。フリフリとしたエプロンとカチューシャ、ニーハイソックス、ストラップ付きの黒パンプス…どう考えてもコスプレでしかない。病弱なのにそういうとこ目ざとい。でも顔がいいから許せちゃうのが気に食わない。部屋に入っていくと…ベッド上でこちらを窺っている彼の姿が。なにそのキラキラした眼差し。子供か…!
「英智先輩。どういうことですか!?」
「うーん。僕は名前ちゃんに会いたいとは念じていたんだけどね、本当に連れてきてくれるとは思ってなかったよ」
会長狡い。体調悪いんじゃないんですか。元気そうに見えるんですけど。「昨夜から高熱を出して寝込んでいたのは本当だよ」と髪をかきあげて色っぽい表情で私を見据える彼。英智先輩のお顔は好みのタイプだが、如何せんfineの親玉であり、気を許せない相手なのは確かだ。trickstarに肩入れしている私が目障りなのかもしれない。と、ずっと考えていたが彼の言葉で、それは杞憂にすぎなかったのだと証明された。だが、この人本当に私を困らせるのが得意すぎる。「僕はね、名前ちゃんを気に入っているだけなんだよ。頑張ってるなぁ、可愛いなぁってね。近くに居られるtrickstarの子達が羨ましいくらいにね…」と近寄った私は彼にくいっと顎を掬われた。やばい。王子様感がすごい。鼓動よ鎮まれ。
「英智先輩、趣味悪いですよ。どうせ呼ぶなら日々樹先輩に来て頂けばよかったんじゃないですか?」
「渉は昨日来てくれたしね。辛い時に本当に会いたくなったのが、名前ちゃんだったんだけど…」
あぁ…私も甘いなぁ。抱き寄せられて拒みもせずに腕の中でじっとしているなんて…。「迷惑だったよね…?」と不安げに問われて首を振るなんて。お金持ちの御曹司で、もしかしたら許嫁だっているかもしれないのに…。辛い時に君に会いたくなったなんて言われたら心ときめくに決まってるじゃないか。何度でも言うが、皇帝陛下ほんと狡い。「添い寝してくれたら眠るから」って。天祥院家のメイド(仮)の私が拒否出来ないのを見越して我儘を言っているのだろう。添い寝というか抱き枕ですね。年頃の男女が同じベッドで…とかそういうのは深く気にしない。これは看病だ。と自分に言い聞かせて何とか切り抜ける。英智先輩は寝てくれたけど、私は全く寝られない。抱きしめられて身動きもとれない。でも不思議と、逃げたいとか離れたいとは思えない。ずっとこのままでもいいかも。なんて…。ぼーっとしていた自分に忠告しよう。「とんでもない人に気に入られたみたいだよ」と。「ありがとう。よく眠れたよ」と微笑む王子様の口からは信じられない台詞が飛び出しました。
「ますます君を手に入れたくなったよ。逃がさないから、覚悟しておいて」
「何故私は押し倒されてるんですかね…」
END