天城燐音
名前
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-「俺とヨリを戻してくれないか」
浮気しておいて何を馬鹿なことを言っているんだ。ついに私をストーカーしていた犯人が判明したのだが、別れた元カレだったわけで。じりじりとこちらに近付いてくる恐怖で足が竦んで動けなくなった私を背に隠し天城が立ちはだかってくれた。日頃から散々いがみ合っているのに、今は頼もしくて堪らない。彼のジャケットの裾を握り、ぎゅっと目を閉じている私の耳に聞こえる台詞はあまりにも荒唐無稽なもので。「俺と名前ちゃんは深ーく愛し合ってんだよ」と。「これ以上名前ちゃんに付き纏ったら許さねェから覚悟しとけよ」と告げるなり、私の手を引いて走り出した。私の住むマンションの前まで来たところで手を離されて何故か謝られた。
「なんで謝るの。謝りたいのはこっちの方だよ」
「だって、深ーく愛し合ってるなんて嘘言ったもんだから名前ちゃん怒ってるっしょ?」
どうしてそうなるんだ。嘘も方便というじゃないか。例えあの言葉が嘘っぱちでも、私を助けてくれた事実は変わらない。「怒ってるわけないでしょ。ありがとう」と手を握ったまま彼を見上げると、腰を引かれて抱き竦められた。夜の冷えた空気の中で感じる天城の体温が温かくて、彼の腕の中にいると安心して泣きたくなった。そして「なァ、名前ちゃん。名前ちゃんと深ーく愛し合いたいっていうのは本当だから」とふと耳元で囁かれた。
「何それ。カラダ目当てってこと?」
「いや、違…っ」
せっかく見直したのに、その言葉で台無しだ。やはり天城はセクハラ野郎でカラダ目的のチャラ男なのか。と胸板を押し返し、背を向けて走って逃げた。マンションのエントランスで俯いた私の頬を伝う涙がコンクリートの床に落ちて染みを作る。天城には感謝してるのに、お礼もそこそこに逃げてしまったし、どうしたらいいのか。と絶望していた刹那、急に温もりに包まれて息が止まりそうになった。すっぽりと腕に収まってしまい、抵抗しても離してくれない。「ヤリ目的じゃないって!そりゃ、名前ちゃんとシたいけどさァ…」と下心ダダ漏れだったので肘で殴った。
「やだもう、離して…!」
「だってよォ、好きな娘とシたくなるのは当然だろ?」
「へぇ…いつもそうやって口説いてんだ」
漸く腕の中から解放された私は蔑んだ視線で天城を見つめる。助けてくれた時は不覚にもキュンとしてしまったけど、今は現実に引き戻された気分だ。嫌悪感を隠そうともしない私の頬を撫で、顎をクイッとされたせいで彼と目が合う。見たこともない真っ直ぐな眼差しで、何故だか視線が逸らせなくなる。「名前ちゃんてほんと可愛いなァ!そんなに燐音くんのことが嫌いなのかァ?」と、唇に笑みを乗せた彼に問われる。今までの私なら「嫌い」と即答していた筈だ。だが、言えなかった。私は天城のことが嫌いではないんだ。何も言わない私に「あっれェ?もしかして燐音くんのこと好きになってくれた?」と問う彼は、答えを聞いてないのに嬉しそうだ。
「うーん…なんか、カラダ目当てって分かったら冷めた」
「違うって!勘違い!俺っちは名前ちゃんと愛を育みたいだけなんだって!」
天城必死だな。そんなに私を抱きたいのか。と呆れて笑っていれば、不意打ちで唇を重ねられて。すぐに離れると思っていたその口付けは次第に深いものになっていき、舌と舌が絡み合う。唇が離れた時には息が乱れていて、思わず天城を睨みつけた。「あ~、ほんと可愛いなァ!全然睨めてないし」と、また可愛いって言われた。可愛くない態度しかとってないのに。天城ってほんとに私のこと好きなんじゃない?と、腰を抱かれた体勢のまま彼を見上げる。「ねぇ、天城。今夜、家に上がっていかない?」と、誘ってみればやっぱり食い付いた。単純だな。でも、何故かそれが愛おしくて自分から抱きついてみる。
「名前ちゃんのほうから来てくれるの初めてじゃん。今日の俺っちはツイてる!いや…どしたの?名前ちゃん」
「私…天城のこと好きかもしれない」
「かもしれないって…え?好きじゃないの?」
「…好きだよ」
「急に声ちっさ!」
END