天城燐音
名前
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―「別れるって…本気で言ってんのかァ?」
「私がこの勝負に勝ったら…の話だけどね」
別れる。という言葉を口にすれば、燐音の顔色が変わった。ギャンブル関係の遊びはルールが分からないから、オセロゲームに持ち込んだわけだが。盤上の様子を一瞥して、このまま勝てなくてもいい。なんて思ってしまう自分がいることに気付く。私の恋人は、例え冗談めかした言葉でも初対面の女の子相手に「結婚しよう」なんて平気で言えるような男で、ついでに言えば彼の胃袋を掴んでいるのも私ではなくニキくんなわけで。私とは恋人同士なのにお金と身体の繋がりしかないような気がする。そんなきっかけで始まったこの勝負…。別れたほうが互いの為になるかもしれないし、もっと他にいい男はいる筈…なんて思っていたのにおかしいな。
「随分と余裕そうだな」
「うるさいなぁ…」
ぱっと見ただけじゃ勝敗が分からない盤上に手を伸ばして、白と黒の数を数えていく。「残念ながら、俺の勝ちだ」と最後の黒石を手に彼が告げる。ほんの一枚差で私が負けた。後片付けをして共同スペースから離れるや否や、空き部屋に押し込まれた。そういえば、燐音が勝ったらどうなるのか訊いてなかった。背中は壁で、逃げ場もなく目前の彼を睨みつける。壁ドンされるのもいいなぁ…燐音ってやっぱりかっこいいなぁ。なんて、私はアホか。別れたいと言い出したのは自分なのに。負けて安心してるし、「離してよ」と抵抗してるふり。
「泣きそうな顔して…可愛いなァ!別れられなくて悔しい?」
「そりゃ、悔しいよ。愛情なんて感じられないのに、嫌いになれないんだから」
「愛してる」「結婚しよう」なんていう言葉は一度も言われたことがない。冗談めかした台詞でもいいから、自分だけに向けられてみたい。泣きたいわけじゃないのに涙が溢れてきて、彼が珍しく困り顔を浮かべる。「知ってる?燐音くん、名前ちゃんの泣き顔に弱いって…」と涙を拭われて、抱きしめられる。“涙は女の武器”とはよく言ったものだ。燐音がぽろぽろと本音を零していく。「別れたいって言われた時はどうしようかと思った」「名前ちゃんのいない生活なんて耐えられない」と真剣味を帯びた口調で呟く声が聞こえて、ぎゅっと抱きついた。
「名前ちゃん好きだ。結婚しよう!」
「キスくらいじゃ騙されないから」
「人が真剣に告白してるのに…!やっぱ可愛くねェ!」
END