愛のカンパネラを鳴らせ-第2章-
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
-「ニキくん。おいで」
「あーあ。これじゃ姐さんに軽蔑される…」
健全な男子なら誰しも経験することかもしれない。夢の中の名前はいつだって自分のせいで乱れているのだ。綺麗な思い出ばかりではないかもしれないが、何故か情事中の場面ばかり夢に見る。精を吐き出す時にはどうしても彼女を思い浮かべてしまう。こんな自分を知られたら名前に嫌われてしまうだろう。とニキは自己嫌悪に陥っていた。
「はぁ〜。お腹空いたっすねぇ」
単独の仕事でひとりでテレビ局を後にした彼はそのまま街へ繰り出した。料理番組では審査員が判定をする為、自分は何も食べられない。そういう趣旨の番組ではあるが、お腹が空いてしょうがない。何を食べようか。なんてぼーっと考えているうちに大きな通りに出ていた。こんなブランド街に飲食店はないだろう。と来た道を戻ろうとした瞬間、鼻先を掠めた香りに思わずぴたりと足を止めた。ラムバンのエクラドアルページュ…だったか。名前が愛用していた香水と同じ匂いだ。人気の香水だから同じものをつけている女性が多いのかもしれない。と過剰に期待するのはやめよう。と思いつつ、真っ直ぐ視線を向けた先にはウェーブヘアーの女性。横顔が似ている。気付けば走り出していた。信号が変わるのを待ち、ゆっくりと隣りに並ぶ。
「姐さん…!?本当に、名前姐さん?」
ショーウィンドウに反射して映る顔を凝視して、一瞬言葉に詰まった。まだ夢の中にいるのかもしれない…などと躊躇ったが、彼女の表情がパァっと明るくなるのを見て、堪らずに抱きしめた。ここが外だということも忘れ、感情のままにきつく彼女を抱き竦めた。小さく柔らかな温もり、彼女の匂いも…全てが愛おしくて涙が滲む。会いたかった。もう会えないかとさえ思っていたのに…。
「ニキくんたら、アイドルがこういうことするとスキャンダルになっちゃうんじゃない?」
名前が止めてくれなければ、路上でキスもしていたかもしれない。それほどまでに溢れ出した欲望が止められなかった。口付けが甘い。瑞々しい唇が美味しいなんて、口にしたら怒られそうだ。と一度唇を離してニキが微笑む。潤んだ眼差しが、小動物のような黒目がちな瞳も可愛らしい。何度も唇を重ねていたら、名前に胸板を押し返された。息も絶え絶えに、「唇腫れちゃいそう」なんて恨みがましく見つめられて苦笑するしかなかった。
「もしかして、キスよりいいことしたいんすか?」
「言うようになったね。でも、それはニキくんのほうなんじゃない?」
「そりゃあ…僕だって男っすから、そういうことも考えなくはないっすけど」
キスをしながら胸に触れたせいか、ニキの考えていることなんて見透かされているようだった。ニキが心配していたように嫌われたり、軽蔑されたりなんてことは決してなく、「年頃の男の子ならそういうの普通だよね」と彼女はくすくす笑うだけだった。「でも、おっぱい触るの禁止」なんて付け加える彼女の顔はとても楽しげだった。ニキをからかって遊んでいるとしか思えない。遅ればせながら、気になっていた本題に入る。彼女がこちらの世界に来た時のことを訊かされたが、やはりあの日、同じ建物の中にいたのだと確信に繋がった。
「ESビル内にいたなら、早く姐さんに会いたかったっす」
「そう言われてもねぇ…。一般人がうろちょろするのはまずいでしょ」
もっと早く再会していたかも。自分が一番に出会えていたら…という巡り合わせの悪さを少し恨んだ。一番最初に出会った相手がEdenの乱凪砂だというし、他にも夢ノ咲出身アイドル数人に出会ったらしい。醜い嫉妬心が顔を出してしまう。「姐さん。浮気っすよ」なんて…喋ったくらいで浮気には入らないことはわかっているが、それでも言わないわけにはいかなかった。
「他のアイドルにデレデレするの禁止っす」
「デレデレなんてしてないもん。ニキくんだけだもん」
「そんなこと言って…さっき、宙くん可愛かった。とか言ってたし説得力ないっすよ」
「焼きもちかな…?可愛いなぁニキくんは」
Knightsのふたり、UNDEADに流星隊のメンバーとも面識があるなんてことは絶対に言えないな。と彼女は口を噤んだ。ニキがこんなにも嫉妬するとは思わなかったから嬉しかったというのもある。他のアイドルとの出会いを楽しんでいた彼女とは裏腹に、ニキは気が気ではなく、言おうとしていた言葉を躊躇っていた。食堂のスタッフが一人辞めて欠員が出たせいで人手が足りなくなったこと、自分と同じ職場で働かないか?という当初話そうとしていた話をするか悩んだのには理由がある。絶対に他の男に絡まれると確信したからだ。
「姐さんが食堂で働いたら、悪い虫が寄り付くに決まってるっすね。うーん…」
「え?私もESの食堂で働いていいの?」
「そう思ってたんすけど、姐さんと関わる男が増えるのは嫌なんすよね」
「そこはニキくんが何とかしてよ。私もESで働きたい」
「燐音くんなんかは既に興味持ってるんすよね。だから不安で…」
「燐音くんには「運いいですね」とか言っとけばいいんでしょ?」
「それは話が弾むパターンっす。逆効果っすよ」
……To be continued