愛のカンパネラを鳴らせ-第2章-
名前
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-一般人の名前が確実にニキに会える手段がひとつだけ存在する…握手会だ。だが、如何せん三次元のアイドルに興味すらなかった彼女がいきなりクレビの握手会に参戦するのは無理だろう。新参者に厳しそう、椎名ニキ同担拒否過激派なんて人に絡まれたら怖い…などとどうしても尻込みしてしまうのだ。それよりも、同じ場所で働ければいいのだが…。食堂のスタッフ、または事務員…清掃員でもいい。とは考えるものの、芸能関係の事務所でそう簡単に雇ってもらえるわけもない。
「ハリーウィルトンかぁ…敷居が高いな」
定時帰りにあてもなく街をぶらぶらとする。職場近辺にはブランド店が多い。GUCHI、PLADAの前を通り過ぎ、ジュエリーショップの前で何となく足を止めてしまった。ダイヤモンドのネックレス、指輪…数億円はしそうな煌びやかなそれは、きっと自分とは一生縁のないものだろう。自嘲的な溜め息をついたその時だ。自分と同じようにショーウィンドウの前で足を止めた人物の姿がガラスに反射して映りこんだ。息が止まるかと思った。見間違いかもしれないと…。
「…姐さん!?本当に、名前姐さんなんすか?」
「ニキくん…!会いたかったよぉ…っ」
道の真ん中で、人目も憚らず抱きしめ合った。しなやかな腕も、彼の匂いも…何もかもが懐かしくて、愛しくて涙が溢れた。しかし、アイドルの彼が一般人と抱き合っているのはまずい。と、ふと我に返った名前がニキの腕をグイグイ引きながら近くのカフェに入っていく。個室完備の店なので大丈夫だろう。個室に通され、扉が閉められた途端にニキが再び彼女に抱きついた。噛み締めるようにぎゅうっと抱きしめられて、彼の腕の中で幸せを感じていた。
「やっと会えた…本物のニキくんだ」
「もう絶対に離さないっすよ。名前姐さんのいない世界なんて耐えられなかったっす」
「私も同じ。ニキくんがいてくれないとダメみたい…」
どちらともなく唇を重ねた。触れるだけのものが、やがて舌を絡めた濃厚な口付けに変わる。二度と離さない。と彼らの心には通ずるものがあるだろう。何度も唇を重ねた後、ニキが彼女の胸元を確認して「やっぱり…」と呟いた。彼の残した所有印は消えてしまったようだ。名前を壁に押さえつけ、胸元にもう一度痕を付ける。
「ニキく…っ。こんなとこで、ゃん…っ」
「僕のってマーキングしとかないと、悪い虫が寄ってきちゃうっすから」
久しぶりの甘い時間も束の間で。「安心したらお腹が空いたっす」とニキは通常運転で喫茶店のフードメニューをたんまりと注文していた。エビグラタンを食べながら、向かいの席でオムライスを頬張っているニキの幸せそうな顔を眺めて彼女は穏やかに笑った。“心にニキの栄養スマイル”そのキャッチフレーズは確実に的を射ている。そう感じた。何度かESビルに足を運んで、それでも会えなくて、握手会に行こうかとまで考えていたのに、まるで引き合わされたかのように出会えるなんて…と、信じていなかった運命なんていうものを信じてもいいかもしれない。とすら思えた。
「目が覚めたらESビルの中にいたんだけど、ニキくんには会えなかった。最初に遭遇したの乱凪砂くんだったし」
「あ〜。その時、燐音くんが目撃してたっぽいっすよ。それにしても、最初に出会えたのが僕じゃなくてなんか悔しいっす」
それからも、夢ノ咲出身のアイドルには何人か遭遇したことを伝えるや否や「名前姐さん!浮気っすよ」とニキは怒っていたが、名前はそれが嬉しくてただ笑うだけだった。
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