愛のカンパネラを鳴らせ-第2章-
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-「新しい課長、海外に飛ばされたって本当?」
この世界の私の職場もまるっきり同じように存在した。唯一の変化といえば、新しく上司になった筈の元カレが左遷されたことくらい。あの応接室には監視カメラが設置されていたらしく、私へのセクハラが明らかになり海外の支店に飛ばされたとか。そんなわけで悩みの種がなくなって一安心というわけだ。だが、それとは関係なくモチベーションの問題が発生中である。私の原動力となっていた愛妻弁当(ニキくんのお弁当)がなくなった今、自分で手作りしたお弁当に物足りなさを感じる。手元の弁当箱を一瞥するが、ふりかけご飯に、おかずの中には冷凍食品がちらほら。ニキくんのお弁当が恋しくなってまた泣きそうになる。
「今日は愛妻弁当じゃないんですか?」
「花嫁修業中だから自分で作ってんの」
以前、私の弁当は彼氏の手作りだと語ってしまった相手。他部署所属の同期女子に痛いところをつかれて苦々しい笑みが漏れる。泣かない。こんなところで泣けない。と、ぐっと堪えて口にする卵焼きも唐揚げも、あまり美味しく感じられなかった。少しは手慣れてきた私の様子を見たニキくんに「僕がいなくても大丈夫そうっすね」なんて言われたけれど、全然そんなことはない。私の料理の腕前は普通以下だったから、少し上達したところで中くらいの実力だから。泣いたらメイクが崩れるけどハンカチでそっと涙を拭いた。どうしてこうも涙腺が弱くなったんだろう。涙が枯れるなんてことはよっぽどないな。と、身をもって感じている。
-「綺麗なおねーさんに溜め息なんて似合わないよ」
「アイドルが一般人にナンパとかよくないよ。UNDEADの羽風くん」
「え…?おねーさん俺のファン?」
「私の友人がUNDEAD箱推しだから知ってるだけ」
甘い言葉を囁きながら向かいの席に座った彼の顔を見てドキリとした。チャラ男は好きじゃないけれど、この子なら許しちゃおうかなと思ってしまう。目が合った彼の名は羽風薫。あんスタの世界に来たんだから満喫しないと勿体無い。と思い、休日に聖地巡礼がてら訪れたのが深海奏汰くんが運営しているという《あおうみ水族館》。一人で一通り見て回った後、休憩スペースでホットコーヒーを飲みながらひと息ついていたらあんスタキャラに遭遇した。こんな私にも声かけてくれるとか、薫くんはストライクゾーン広めなのか。と何気に失礼なこと考えていたのだけど、ここに初めて来たことを伝えるや否や「じゃあ、俺が案内するから一緒に回ろうよ」と自然な流れでデート(?)することになっていた。
「名前ちゃんは笑ったほうが可愛いよ」
薫くんは見かけによらず可愛いとこあるしいい子だって分かってる。だけど、この光景を見たら誤解を招くのは当然で。「かおる。くどいちゃだめですよ」と突如私達の前に現れた人物こそ、ぷかぷか…もとい、奏汰くんだったわけで。「かおるも名前さんも、一緒にぷかぷかしませんか〜?」とお決まりの台詞が聞けた。やんわりと断る薫くんの横で私も思わず苦笑。海洋生物部に囲まれるとは思ってもみなかったな。アクアリウムという心落ち着く空間の筈が、二人もアイドルに出会ったことで逆に落ち着かない。本当に逢いたい人には会えないのに、夢ノ咲学院出身キャラにはよく遭遇する。この前も春川宙くんに出会ったし。そうそう…宙くん可愛かったな。それに薫くんも奏汰くんも実物はイケメンなので照れる。
「だから〜、口説いてたわけじゃなくて」
「でも、名前さんとの『きょり』が近かったです」
こんな光景をニキくんに見られたりしたら「姐さん。浮気っすよ」なんて言われてしまうんだろうか。奏汰くんの言うように、薫くんは距離近いというかナチュラルに手を引いてくれてるんだよな。「暗がりだから足元気を付けて」と優しいんだけど。やっぱり私はニキくんとデートがしたい。薫くんと奏汰くんは私のアンニュイな気分を紛らわせてくれたけれど、水族館を出て一人の帰り道でどうしても彼を探してしまう。曲がり角でぶつかったりしないかな?なんて、どこの少女漫画だ。しかし…近所の公園を横切った時に「インスピレーションが〜」とか聞き覚えのある声が聞こえたせいで仕方なく公園内に足を踏み入れた。
「ん…?誰だお前は。宇宙人か!頭にアンテナあるし宇宙人だな!うっちゅー」
「いや、これは簪であって決してアンテナじゃないのですが」
五奇人じゃないけど、関わるの面倒くさいなこの人。自己紹介しようとすると「待って!言わないで!想像するから!」と言われたけど名乗っておいた。「なんだ。宇宙人じゃないのか」と不満そうだ。ご期待に応えられずごめんレオくん。「ところで紙とペン持ってない?」と訊かれ、地面を一瞥すると彼が書いたと思われるそれが今にも風で消えそうになっていたのですぐにメモ帳とペンを手渡した。こんなこともあろうかと持ち歩いていてよかった。「お前面白いな!」と謎に打ち解けたところで「れおくん〜?」と現れたのがわかめさんもといKnightsの瀬名泉で。正直…予想してたから嬉しい。「誰だか知らないけど、うちのが迷惑かけて悪かったね」とか謝ってくれたし何気に面倒見いいんだよなこの人。そういうとこ好き。中身ストーカーなのがたまに傷だけど。
……To be continued