ピロートークはまだ早い
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
-「HiMERUくんはセンスいいよねぇ〜」
今日は私の買い物なんだが、HiMERUくんもついてきてくれた。自分好みのファッションもいいが、たまにはオシャレなHiMERUくんに服を選んでもらうのもいい。こういうハンサムウーマン風の服装は自分じゃ選ばないし。すっきりとしたパンツスタイルは動きやすくていいなと思っていたけれど、もう少し女っぽいものも着たい。とりあえずパステルブルーのスキニーとデニムシャツは買おう。彼はスカートのほうが好みかもしれないし。と、ワンピースを見ていたらHiMERUくんが綺麗なシルエットの黒ワンピを持ってきてくれた。試着室で着てみたけれど、丈も丁度いいし肌触りも抜群だ。カーテンを開いて彼にお披露目しようとしたのだが、なんとHiMERUくんが同じ試着室の中に入ってきたではないか。そんなに広くない空間で抱きしめられたまま抵抗するけれど、耳元で囁かれて動けなくなった。
「よくお似合いですよ名前。ここも、最高なのです」
「え…っ。これって胸空き…?」
そう…全てHiMERUくんの思惑通り。よく見ていなかったのが悪いのかもしれないが、一見素敵に見えるこの服は胸空きワンピースだったのだ。ぽっかりと空いているそこにHiMERUくんの指が侵入してくる。精一杯の抵抗をしているが、ムニムニと柔らかさを堪能され、やがて敏感なそこへ触れられて肩がびくりと跳ねた。「こんなところでダメだよ」と彼を諌めるけれど、行為はエスカレートしていくだけで。「HiMERUに襲われて、こんなにいやらしい表情になっていますよ」と鏡に顔を向けられて赤く蒸気した自分の顔が写る。声が漏れそうになると口付けで塞がれて、思わず意地悪な台詞を呟いていた。
「HiMERUくん、おあずけ。弁えてくれないなら、今月は抱かせない」
「それは長すぎなのですよ」
-数日前の出来事がもはや懐かしくて恋しくなってくる。その原因は現在、私の置かれている状況にある。HiMERUくんには里帰りと言ってあるけれど、実は断りきれなかったお見合いをさせられている。相手は資産家の息子さんであり、きっとこの人と結婚したら玉の輿というやつになる。爽やか系イケメンだけど、やっぱり私のHiMERUくんには敵わないな。と失礼なことを考えていたら、いつの間にか「あとは若いおふたりで」と二人きりにされてしまった。最初は「ご趣味は」とか「甘いものはお好きですか」とかそういう当たり障りのない会話をしていた筈なのに、どうしてこうなった…!?隣にきた彼にじっと見つめられ、クイッと顎を掬われて背中が粟立つ。HiMERUくんにしか触られたことないのに…と涙が溢れてくる。
「名前さん、すごく俺の好みなんですよね」
「や…っ。離して…っ」
襖が荒々しく開けられた音が響いた時は、私の声に両親が駆けつけてくれたのかと思ったのだが、どうやらそれは違ったみたい。言葉通り攫われたといっていいだろう。抱きしめてくれる腕に安心してまた泣いた。せっかく綺麗にお化粧してもらったのに…なんて。お見合いが台無しになった今となってはどうでもいいや。「名前は着物姿もすごくいいのです」と振袖姿を褒められて嬉しいけれど、そうじゃない。HiMERUくんが私を迎えに来たから、両親にも彼の存在がバレてしまったわけで。
「お見合い当日に名前に手を出すなんて、あの男最低なのですよ」
「HiMERUくん。来てくれてありがとう」
お見合いが終わったのですぐ普段着に着替えた。着物って結構苦しかったな。そして、実家でHiMERUくんを紹介することに。イケメン大好きな母は人気アイドルのHiMERUくんを知っているみたいで乗り気だからいいけれど、問題は父だろう。アイドルと結婚を前提に付き合っているなんて反対されるに決まっている。挨拶は終えたけれど「HiMERUくん。私の部屋でじっくり話そうじゃないか」と父に連れていかれてしまったし大丈夫だろうか?かくいう私は、彼との馴れ初めを母に根掘り葉掘り訊かれている。お見合い中に攫いにくるなんていうベタな展開は、メロドラマ脳な母からすれば好感度大だったに違いない。
「HiMERUくんはまだ10代なんだけど、そうは見えないでしょ?」
「名前さんを絶対幸せにしてみせます」と宣言してくれた時にはキュン死にした。アイドルやってるうちは結婚は無理だと思うし、まだ結婚しなくていいけれど、HiMERUくんの本気が見られて幸せだ。「君はモテるだろうし、どうせ他にもいい女性(ひと)がいるんだろう」と父に言われても「名前さん以外なんて眼中にないのです」ときっぱり言い切ってくれたし、私は彼を信じている。きっと公務員家系で頭の固い父にも認めてもらえると…。
「なかなか博識な青年じゃないか。アイドルというから誤解していたよ」
「HiMERUはこれでも飛び級で大学を卒業していますので」
HiMERUくん強いな。そういえば飛び級で大学出てる天才で家柄も良しだったな。そりゃあ父も認めざるを得ないよな。二人とも笑顔で戻ってきたし一件落着ということでいいのだろう。泊まっていかないかと誘われたけれど、HiMERUくんとラブラブするには気が引けるし家に帰りたい。
「HiMERUに内緒でお見合いをしているなんてショックだったのですよ」
「ごめんなさい。断りきれなかったらしくて…」
帰宅早々怒られた。私が悪いからこれ以上反論しないけれど「あのお相手は相当な資産家と訊きました。名前はあの縁談を受けたかったのでは?」となんかHiMERUくん弱気だな。せっかく両親に認めてもらえたのに、私はお金持ちと結婚したほうがよかったんじゃないかと心配してるんだな。まぁ、世間的に見たらアイドルの嫁よりも資産家の嫁を選ぶ人が多いだろうし彼の言いたいことは分かるが。
「私にはHiMERUくんしかいないよ。他の男性(ひと)なんてどうでもいい」
「名前に触れていいのは俺だけなのですよ」と、お見合いの時私がよその男に触られたのが相当気に入らなかったようで、きつく抱きしめられて何度も唇を重ねられた。私の心も身体も全部HiMERUくんのものなのにな…。なんて、ふとした瞬間にもどかしくなる。きっとそれは彼も同じ気持ちを抱えていたのだろう。「名前はよく“HiMERUくんはまだ10代だし”と言っていますが、もう結婚出来る歳なのですよ」と真摯な眼差しで告げられたから。
「それはそうだけど…」
私が何か言ったところで彼は納得しない。今回のように他の男に言い寄られることもあるし、ここまでしないと安心できないんだろうな。そう…彼の本気は、私の薬指に嵌められたエンゲージリングに表れている。ダイヤモンドと両サイドにピンクサファイアが…。こんな高価なものを…なんて気が咎めるけれど、HiMERUくんは満足そうだから野暮なことを言うのはなしにしよう。
「名前がまだ望んでいないようなので、プロポーズはしませんが…HiMERUとの結婚を約束してください」
「それって実質プロポーズなのでは…?」
「本当は、今すぐにでも結婚したいのですよ」
「じゃあ、結婚しよっか。私…絶対HiMERUくんを幸せにする」
「…名前。それ逆プロポーズなのですよ」
まだHiMERUくんのご両親に挨拶行ってないけどいいのかな?ていうか、私の苗字は十条になるんだよね…?そんな大事なことも実感ないなんてすごいな。ただ今はHiMERUくんのお嫁さんになれることが嬉しすぎて身悶え中なので、難しいことはまた今度考えよう。うん、それがいい。
END