愛のカンパネラを鳴らせ
名前
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-「ニキくん。行ってきますのハグ」
ニキくんと一線を越えてしまってから、スキンシップに躊躇いが無くなった私と違って、ニキくんは恥ずかしいのか塩対応で。あの日のことをなかったことにしようとしてるみたい。あれから一度も身体を重ねていないし、本当にあれっきりにするつもりなのかな?身体の相性も良かったし、ニキくんだってヤリたい盛りのお歳頃だろうに…なんて、私が欲求不満なだけ?と密かに落ち込んでいる。
「ハグはしないけど、僕が作ったお菓子をあげるっすよ」
ニキくんの手作りクッキーだ。嬉しいけど、私はハグしてほしかった。私はあの日のことをなかったことになんてできないし、したくないんだと思う。だけどニキくんからすれば、今までのように付かず離れずな適度な距離を保った関係でいたいのかもしれない。だから私はハグを諦めお礼を伝えて「行ってきます」と家を出た。何かを振り払うように外の空気を吸い込んで、遠くの景色に視線を向ける。
-午前中だけ休日出勤だった私は、ニキくんのお留守番中に何が起こっているのか知る由もなく。昼頃に帰宅し扉を開けると、玄関には自分のものではない女性もののパンプスが…。これはどういうこと?と、ズカズカとリビングに入っていくと何とも楽しそうな声が聞こえる。ニキくんめ、私が留守の間に浮気か!と、わざと荒々しい足取りで近付いていくと、二人分の「おかえりなさい」の声が響いた。
「名前ったら、こんな若いツバメを捕まえて…」
「名前姐さん、お仕事お疲れ様っす!」
そう…ニキくんが勝手に家に上げていた人物こそ、私の母だったのだ。事前に連絡してこないのが悪いと思うんだ。私がニキくんと同棲していることがバレてしまったわけで、どう説明したらいいのか。と、冷や汗が出てくる。「事情は全部ニキくんから訊いたわ」と言う母は“君はペット”よろしく、ダンボール箱に入れて捨てられていたニキくんを私が拾って一緒に住むようになったと思っているみたいだ。確かにニキくんペットっぽい可愛さあるけど。それで納得している母大丈夫?なんて心配は、二人が知らないうちにだいぶ打ち解けていたので考えるのをやめた。
「お母さんと一緒にお昼ご飯作ったっすよ」
「ニキくんは名前と違って料理が上手よね」
分かるぞ。私をディスってニキくんをアゲたくなる気持ちは。豚肉のみぞれ煮うま。母の得意料理を二人で作ったのか。美味しいけど、私の知らないところでニキズキッチンしてるのずるい。お母さんイケメン好きだからってずるい。しかも母が度々現実的な発言をしてくるので受け流すに流せないんだよな。「名前もそろそろ結婚してもいい歳なんじゃない?」とか「ニキくんにお婿にきてもらおうかしら」とか。私とニキくんが結婚する前提みたいな口ぶりで気が咎める。昼食も食べ終わったし、母は帰ってくれたけど色んな詮索をされてしまったな。
「うちのお母さんが突然ごめんね」
「僕が名前姐さんの彼氏だと思われていたみたいだけど、大丈夫なんすか?」
「私の彼氏設定、嫌だったよね?だって…この関係どう説明したらいいか分からなくて」
キスも、それ以上のこともしたのに、私達は付き合っているとかそういう関係でもなく。某ペットの漫画と同じような状況なんだよね。でも、あの漫画と違って、私には憧れの先輩とか好きな人がいない。ニキくんのことは好きだけど、いつかは元の世界に戻ってしまう相手なので本気で恋をするだけ悲しい想いをするのでは?なんて、考えてしまうし、ニキくんだって私のことどう思ってるのかも知らないし。歳上のおねーさんに流されて関係を持っただけかもしれないし、愛だとか恋だとか言えるような関係ではないと思ってたのだけど。
「お母さんが、姐さんにお見合いの話がきてるって言ってたっす」
「えー。そんなのきいてない」
「僕だって名前姐さんがお見合いするの嫌っすよ」
「僕はずっと姐さんの隣にいることができないって分かってるのに」こんなこと言うべきじゃない。と、悲しげな言葉を聞いて一気に現実に引き戻されたような感覚だ。この幸せな日常がずっと続くような気がしていたから。だけど、私達が離れる時は刻一刻と迫ってきている筈だ。この穏やかな日々は嵐の前の静けさってやつなんだろう。
……To be continued