愛のカンパネラを鳴らせ
名前
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-「見ての通りだから。もう私に執着しないで」
状況を一切呑み込めていないニキくんの手を引っ張って腕を絡ませる。本当に、こんな時に利用して申し訳ないとは思っている。ニキくんと一緒に料理…つまり二キズキッチンへの参加許可が下りたので、材料を買いに行く途中だったのだ。その道中で遭遇した人物というのが、私の元カレだった。地元で学生をしていた時に付き合っていた彼だったのだが「自分も上京したから、これを機にヨリを戻そう」というメッセージを無視していた私の元に直接現れたというわけだ。「随分と若そうな男連れてるな」とか言われてギクッとしたが、ここでニキくんが「名前さんは僕のなんで、諦めてくださいっす」とか言ってくれたのが予想外すぎた。
「ニキくん…その、ありがとう。巻き込んでごめんね。帰ったら詳しく話すけど」
「姐さんの顔が強ばってたから、ついあんな事言っちゃったっすよ」
「早く食材買いに行きたかったし」と、これはこっちが本音なのでは…?それでこそニキくんだ。唐突なシリアス展開だったから、ニキくんのそういう天真爛漫なところにむしろ救われる。先程のことがあってから手を握られて走り出し、今しがた近所のスーパーに到着するまで手を離してくれなかった。これは番犬再び?なのでは…?自宅の冷蔵庫に特売で買った卵が残っていたからオムライスの材料を買って帰る。「あ、お酒も買おうかな?」とカクテルチューハイに手を伸ばした時、先日の失態を思い出してお酒は買うのやめた。
-「あの男性は…名前姐さんのなんなんすか?」
「昔付き合ってた元カレ」
「もしかして、僕がしたこと余計なお世話だったり…?」
二キズキッチンする前に、問題だけは解決しておきたくて説明。こういうプライベートなことを推しに知られてしまうのはなんかやだな。私が彼とヨリを戻したいのなら、自分は余計な事をしたんじゃないか。とニキくんは気にしているみたいだけど、全然そんなことないし気にしないでほしい。「名前さんは僕のなんで」って発言はすごく嬉しかったけど、そんなこと言ったら咄嗟のアドリブを本気にしてるんだと思われそうなので、そこは触れない。「ヨリを戻す気はないしニキくんのお陰で助かったよ」と笑顔でニキくんを見つめる。
「さて、一緒に料理するっすよ」
「よっしゃ。私頑張る!」
玉ねぎの皮は私が剥いてニキくんにパス。さすが料理人…包丁使いというかみじん切りも見事だ。チキンライスはニキくんに任せて、卵を用意しておいてと言われたので母のお手伝いをする子供の如くボールに卵を割って溶き卵を作っておく。いい匂いがするしチキンライスめちゃくちゃ美味しそう。グリーンピースも入ってるところがなんかプロっぽい。私がオムライスを一人で作ったことがない理由…それがこの、卵で上手いこと包むことが出来ないから。ニキくんがあっという間にやってくれて、私は結局バターを用意しただけだったな。
「ニキくんほんとすごいよね」
「そうっすか?そんな大したことじゃないっすよ」
テーブルで待ってるように言われ、出来上がったオムライスに視線を向けるとトマトソースでハートマークが描いてあって大歓喜。ニキくんからしたら他意はないだろうけど。幸せすぎる。すかさずスマホで写真を撮った。「冷めちゃうから早く食べてくださいっす」と諌められて漸く冷静さを取り戻した。こんな美味しいオムライス食べたことない。私もうESビルで働きたい。コズプロの事務員とかでいいから。食堂またはカフェシナモンでニキくんの手料理が食べられるの羨ましすぎる。
「私もESビルで働きたい」
「それなら、僕と一緒に食堂で働くなんてどうっすか…?」
「ホール担当なら料理はしなくてもいいっすから」と私のこと分かってるな。って思うと同時に荒唐無稽なことだと正気に戻って泣きそうになる。私の心境を知ってか知らずかニキくんはいつもと変わらない笑顔で。しかし…お皿を洗っている私にまさかの事態が。ニキくんに後ろから抱き竦められたのだ。あ、これってあすなろ抱きってやつだっけ。と現実逃避するみたいにどうでもいいことを考える。皿を洗い終わったタイミングでニキくんに声をかける。「どうしたの?」と。腕を離すわけでもなく、そのままの体勢で彼は告げる。その声はどこか切なげで胸が苦しくなった。
「僕…名前姐さんと離れるのが辛いんすよ。迷惑かけてるって分かってるのに」
「迷惑じゃないよ。むしろ私のほうが家事任せて迷惑かけてるしね」
ニキくんってあったかいな。こんな風に抱きしめられるとドキドキするな。なんて…年甲斐もなく胸をトキめかせたりなんかしちゃって。肩にかけられたその手に触れる。こうして触れられるのに、いつかまた画面越しにしか会えなくなってしまうのか。その時にはニキくんに意思はなくて、私のことも認識してもらえなくて…なんてニキくんの腕が離れた今、私は隠れて泣くことしか出来なかった。あの後謝罪されて「名前姐さんの元カレさんが現れてから、なんか焼きもちというか…」と自分でもこの行動の理由が説明出来ないと言いたげに彼は気まずそうに視線も合わせてくれなかった。
「妬いてもらえるのは嬉しいけど。私はあの人のこともう何とも思ってないから」
「でも、あの人絶対名前姐さんのこと好きっすよね」
……To be continued