愛のカンパネラを鳴らせ
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-この生活が幸せで、ついつい忘れてしまいそうになるけれど、ニキくんはこの世界の人間じゃないわけで、いつかは元の世界に帰ってしまうんだよなぁ…。なんて、現実逃避するみたいに酒を煽る。同じ部署の人の送別会だから仕方ないけれど、ニキくんに会いたいから早く帰りたい。二次会にはもちろん参加せずに抜けてきた。最初は普通に歩いてたけど、早くニキくんに会いたくて競歩かってくらいの早歩きになる。きっと私はニキくんがちゃんとこの世界に存在してくれていることを確かめて安心したいのだと思う。
「名前姐さん。結構飲んできたんすね」
「連絡したとはいえごめんね。付き合いで仕方なく」
そうそう…こんな会話をしていた筈だ。その後ニキくんがお水を持ってきてくれて…あれ?それから私どうしたんだっけ?と、記憶が途切れている。だからこそ、「姐さん。昨日のことどこまで覚えてるんすか?」なんて怒った顔のニキくんに訊かれてしまって。それはもう冷や汗ダラダラ出てきたよね。酔った勢いで襲ったりしてないよね?って。二日酔いで頭痛いけど、これは異常事態だな。と感じ取ったのでリビングのテーブルでニキくんと向き合う。
「帰ってきて、ニキくんに出迎えてもらって…それからどうしたんだっけ?」
「それから、僕に抱きついてきたんすよ。水飲んでって言ってるのに聞かずに…」
うわ。それはやっちまったな。って顔面蒼白ですわ。「それから〜頬にキスされて…」と言われた瞬間、土下座しなきゃって思った。そしたらニキくんに止められちゃったけど。ほんと、ちょっと飲みすぎたくらいでやらかしちゃってるな。これはニキくんに嫌われて家出されても文句言えないな。とか反省していた私の耳には、自分にとって都合の良すぎるニキくんの言葉が届いていなかった。
「名前姐さん、責任とってほしいっす。僕の心を弄ぶなんて酷いっす」
「そうだね。責任取って結婚しようか」
「名前姐さんが手料理作ってくれたら、今回の件は水に流すっすよ」
結婚の話はスルーされた。見返りにエッチなことを求めてこないニキくんピュアすぎるな。そんなことで許してくれるなら、ありがたいけどね。もっとそういうことを期待していた私は心が汚れているんだな。それにしても、記憶を無くしているのは勿体なさすぎた。ニキくんにハグしたり頬っぺチューしたりした時の反応見てみたかった。それよりも、ここでひとつ問題がある。料理初心者の私の手料理だ。とてもじゃないけどニキくんに食べさせられるようなものは作れない。手料理ってお菓子作りじゃダメだろうか。お菓子ならば学生時代に趣味で作っていたし、何とかなりそうだけど。
「ニキくーん。手料理ってお菓子じゃダメかなぁ?」
「お菓子でもいいっすよ。名前姐さん、お菓子作りに自信あるってことっすよね」
「じゃ、そういうことで、私一人で作るから。ニキくんは楽しみに待ってて」
さて、何を作ったらいいのだろうか。チーズケーキ?マフィン?クッキー…?と、色々迷ったけれど、型もあるし、ドライフルーツもあるし、パウンドケーキにしよう。失敗もしなさそうだし。と、かなり久しぶりにお菓子作りに勤しむ。社会人になると、もう買った方が早いし美味しいじゃん。という感じになるので滅多にお菓子作りはしなかったのだ。だけどニキくんの為にお菓子作りなんて、バレンタインに好きな人の為に手作りするみたいでモチベーションが上がる。(今、季節全然違うけど)綺麗に焼きあがったし、これならニキくんに食べてもらえそうだ。ほんとは可愛くラッピングして、プレゼント風にしたかったけれど、生憎うちにはラッピングする用の袋も箱もないので切り分けてそのままお皿に乗せた。
「今回の件は本当にごめんなさい。これで全部チャラにできるなんて思ってないけど、どうぞ召し上がれ」
「自信あるって言ってただけのことはあるっすね。美味しいっすよ」
カレーライスの時は昨日の残り物を出しただけだったので、ニキくんの為に料理をしたのはこれが初めてだ。不味くはないけど普通くらいの味だと思うんだけど、ニキくんってば甘めに評価してくれてるんだな。だけどやっぱりお菓子作りが得意なのは普通の料理ができるのとは違うわけで。花嫁修業の如くやるべきかも。なんて思ったところでそもそも嫁の貰い手がないよなぁ…なんてね。ニキくんに嫁に来てもらうのが一番いいんだけど、本人はお嫁さんとか呼ばれるの嫌そうだしな。
「ニキくんはお料理上手な女の子のほうが好みなんでしょ?」
「まぁ、確かにご飯いっぱい食べさせてもらえるのは魅力的っすけど…」
そりゃあ私だって結婚するなら料理上手な女の子のほうがいいしな。私はニキくんの為に料理が上手になりたいのに、その本人から料理を教えてもらうのは、私の不器用さが露呈しそうで心境的には複雑だけど。「今時お料理くらいできないと嫁の貰い手がないのよ」なんて愚痴っぽい姐さんでごめんよニキくん。10代の子になんてことを相談しているんだよ。こんな面倒くさい姐さんなんてほっとけばいいのに、君は期待を裏切らないなぁ。
「僕は貰いたいっすけどねぇ。料理は練習すれば出来るようになるんだし、気にしなくていいと思うっす」
「まじかよ。姐さん本気にしちゃうよ?」
「僕は本気っすよ」
……To be continued