make love.fake love.
名前
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―「とちゅげき!ちんりゃく!しぇーは!」
「あ〜あ。そんなの覚えちゃって…」
茨と同じ髪の色…顔も自分には似ていない。目の前の子供は茨とよく似た整った顔立ちをしている。その二歳児くらいの幼児が冒頭の台詞を唱えながら名前の胸に飛び込んできた。あぁ…なんて可愛いんだろう。と母性溢れる彼女はその子をぎゅっと抱きしめ、よしよしと頭を撫でてやる。よく見たら自分の左手の薬指には結婚指輪が嵌っている。この光景は思い描いていた幸せな家庭そのものだが、肝心の彼は姿を現さない…。ここでハッと意識が覚醒した。目を見開いても部屋には朝陽が差し込んでいるだけで、先程までの景色とはまるで違っていた。うなされていたわけでもなければ、いい夢を見ていたのだと思う。あのまま目が覚めなければ、愛する彼とその息子との生活を楽しめていたのだろうか。周りを見渡しても、彼によく似た息子の姿はない。いつもと変わらない茨の家の寝室だ。左手を翳してみても、その指には何もなくて。泣きたくなるような虚無感に見舞われて瞳を伏せた。瞼に重ねた掌が冷たく感じる。
「おや。起こしてしまいましたか…」
「違う。偶然目が覚めただけ。茨のせいじゃないよ」
徹夜で仕事をしていた茨が、寝室に入ってきたところだった。あの夢の中では彼と結婚をしていて、子供もいたのに。何だか急に現実に引き戻されたような気持ちだ。ぼーっと彼を見つめていれば、ベッドに入り込んできて、その腕に捕まえられた。「怖い夢でも見ましたか?涙が滲んでますよ」と目元に口付けをされた。むしろ幸せな夢だっただろうに。あまりにも現実離れしている内容だったせいか、泣きたくないのに涙が出てくる。「怖い夢なんか見てないけど…」何も言わずに茨が抱きしめてくれる。あぁ…やっぱり好きだなぁ。と抱きしめ返す。「自分が隣にいなかったから、寂しかったのでしょう?」と推測され、そういうことにしておくか。と彼女は「そうかも」とぎこちなく笑うしかなかった。付き合っているわけではない。キスだって、その先のことだってしているのに…普通の恋人らしいことも、デートしたことだってない。所詮、身体の繋がりしかない自分達が結婚するなんて、本当に夢物語だ。と白いシーツを握り締めた。
「あーあ。可愛かったなぁ…」
「それ、自分の話じゃないですよね?名前に可愛いなんて言われても嬉しくないです」
「夢に出てきた茨の子供。可愛かったって話…」
「え…っ。それって…もしや、自分と名前の…」
「知らない。この話はこれで終わり!くだらない話だもん」
自分が口を滑らせたばっかりに、ギクシャクしてしまうかも。と懸念した彼女が咄嗟にこの話題を終わらせようと、締め括ってしまった。どうも気まずくなって彼から離れようと抵抗するが、茨は解放してくれない。「逃しませんよ」と、「その話…もっと詳しく訊かせてください」と深堀されてしまい、ぽつりぽつりと夢の内容の無難なところだけを抜粋して彼に説明した。「茨が出てきたわけじゃなくて…茨にそっくりな子供だっただけで…」と、「私に全然似てなかったし、母親が私とは限らないよ」と荒唐無稽な夢の内容を自ら否定しにいく彼女だが、全て彼に論破された。「名前に似なかっただけで、絶対自分達の子でしょう」
「ごめんね。変な夢見ちゃって…。ありえない話だから気にしないで」
「ありえなくなんかないですよ。名前の中に注いでしまえば…」
抱かれたまま耳元で囁かれ、身体が彼を求めて疼き始める。「潜在意識があるとしたら…名前は、自分との子供が欲しいのでしょうか?」と、もはや言葉攻めである。「ねぇ…。この話は聞かなかったことにして」と漸く彼の腕を抜け出した彼女は部屋から逃げ出した。壁を背に、ヘナヘナと座り込んで膝を抱える。茨の声…官能的な台詞を思い出して顔が熱い。ずっと俯いていれば、足音と共に頭にぽんと手が乗せられた。合わせる顔がない。と、顔を上げられずにいれば、彼は一方的に話し始めた。「名前がそんなに悩む事ではありませんよ。夢の中の話なんですし…」と。「ただ…子供がこんな最低野郎に似てしまうのは嫌です。それに、自分は名前によく似た女の子もいいと思いますが」
「茨のばか。そんなこと言われたら真剣に考えちゃうでしょ」
……To be continued