make love.fake love.
名前
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―「名前…っ!どこ行くつもりですか!」
「だって…この先に海が見えたんだもん。行ってみようよ」
名前がせがまなければ修学旅行には参加しなかったであろう茨が、はしゃぐ彼女の手を引っ張った。路地裏に並ぶ土産物屋を横切った先は砂浜に繋がっていて。視界に捉えた途端に走り出そうとした彼女を茨が諌めた。どうやら彼女は茨の調子を狂わすのが得意みたいだ。苦笑を滲ませながら、手を繋いだまま砂浜へと歩いていく。「あなた方向音痴なんですから、単独行動は控えてくださいよ」と彼に叱られるも彼女はにやけ顔である。さりげなく繋いでくれた手をぎゅっと握り締め、寄り添いながら歩く。ちらりと横顔を盗み見れば視線が重なり、彼女が恥ずかしげに微笑んだ。「なに笑ってるんですか」と訝しげな彼への返答は、聞いている側も恥ずかしくなった。「茨…。好きだよ」と、この告白はもう何度目か分からない。気持ちに応えてくれなくてもいい。けれど、溢れんばかりの想いは伝えておきたくて。複雑な乙女心を募らせている彼女は彼から視線を外し、遠くの水平線を見つめた。好きだと告げられる度に「そんなこと知ってますよ」とはぐらかしていた茨だが、そろそろ自分も名前の気持ちと真摯に向き合うべきなのでは?と葛藤していた。
「好きな人と、こうして砂浜を散歩するの憧れてたんだ」
「名前。自分も…」
彼の言葉はそこで途切れた。「自分も、あなたのことが好きなのかもしれません」と心の中で呟く。はっきり断言出来ないのは、彼の生い立ちに起因しているのだろう。恋愛経験が豊富なわけでも、愛情の何たるかを理解しているわけでもない。だからこそ、無責任なことは言えないのだ。これ以上彼女を傷付けたくないならこそ。茨は何を言おうとしたんだろう。と知りたそうな表情を浮かべる彼女の腰を抱き、後頭部を押さえ、茨のほうから唇が重ねられた。海風に靡く髪、透明感のある素肌…純粋に、彼女は綺麗だと思わされた。そして、思わず手を伸ばしていた。気付いた時には、息を乱すような口付けを交わしていて。唇を離すと、焦がれるような眼差しと視線が絡まった。あぁ…なんて愛おしいんだろう。と、茨が彼女を抱きしめた。彼の腕の中で、幸せすぎてこのまま死んでしまうかもなんて一瞬でも考えてしまった名前は、後に予期せぬハプニングが待っているなんて思いもしなかった。
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