新婚はじめました
名前
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―「孫の顔が楽しみじゃのう」
中身も嬢ちゃんに似ていれば良いのじゃが…。なんて気の早い事をこの間、朔間零に会った時に言われたのを思い出しながら、甘えるように自分の胸に擦り寄ったまま眠っている薫の髪を名前は優しく撫ぜた。まるで幼子(おさなご)のようにすやすや眠っている彼を一瞥して、まだ見ぬ未来に思いを馳せた今朝。そして、只今羽風家に小さな来訪者が…。
「今日は夜まで名前ちゃん家にいていいんだって」
午前10時頃にインターホンが鳴らされ、現れたのは名前の姪のユリ(4歳)であった。本日は薫も仕事が休みであり、二人で彼女の面倒を見る事が可能だ。事前に名前の姉から連絡があったのでカレンダーに丸印が付けられていたのだが、詳細を知らなかった薫は何の記念日かを必死に思い出そうとしていたらしく焦っていた模様。そんな折、向かいの席でジュースを飲んでいるユリの台詞に思わず耳を疑ったのは薫だ。「ユリね、大きくなったら鳩のお兄さんと結婚するよてーなんだ」
「鳩のお兄さんとは?名前ちゃん、解説よろしく」
「日々樹先輩だよ。ユリ、日々樹先輩に一目惚れしちゃったらしいよ。姉さんから訊いた」
「チャラチャラした薫くんより、鳩のお兄さんのほうがかっこいいもん」
鳩のお兄さんはね…と、ユリがつらつらと並べる言葉からは心底渉に心酔しているのが分かる。そんな状況下でいたたまれない気持ちになった薫。「日々樹先輩は見た目派手だし、子供受けするのも分かるな」と庇護してくれるかと思いきや、彼女の言動で追い討ちを掛けられた。昼食作ってくるね。と、名前が席を外したせいで薫はユリから渉の良さを延々と訊かされるはめになるのであった。
―「薫くん、元気出して」
夕飯前にユリの迎えが来たので夕食は二人きりだ。本日の事を引きずりつつも、目の前に置かれたオムライスのハートマークに頬が緩む薫。「料理上手な奥さんを持つと幸せだなぁ」と彼は吹っ切れたように清々しい表情で笑った。「何作っても、薫くんは「美味しいね」って褒めてくれるね」と彼女が言うように薫は褒め上手であり、それに上手く乗せられてしまう名前なのであった。
「昔から、薫くんのそういうとこ好きだよ」
「俺も、昔から名前ちゃんの笑顔が…、」
名前ちゃんの笑顔が大好きだよ。と言おうとした薫の台詞を遮ったのはテレビ画面に映し出された日々樹渉なのであった。ニューシングル発売のCMを目にして、苦い顔をする薫。「どうしたの?」と問いかければ、「同じ日にアンデッドも新曲リリースしたんだけど、週間ランキングでフィーネに負けたんだよね」と。
「フィーネとは因縁があったわけね」
「天祥院くんも俺と偶然会う度に名前ちゃんの事訊いてくるし。あの人、名前ちゃんに気があるのかな」
モテる妻を持つと大変だなぁ。と憂いの帯びた台詞を溢す彼だが、急いでオムライスを咀嚼した彼女がすかさず「それは私の台詞だよ」と言及した。「薫くんみたいな夫を持つと、何回ヤキモチ焼いてもきりがないよ」と幸せそうに、けれど悩ましげに彼女は息を漏らした。「そういえば…」と、夕食を食べ終えた彼女が何かを手にして戻ってきた。
「アンデッドのニューシングル。初回限定版で貰える薫くんのサイン入りポスターゲットしちゃった」
一見、直筆サインが入っているように思える薫のポスターを広げて嬉しそう微笑む彼女に、彼はもう何度目か分からないときめきを感じていた。空(から)のお皿を流し台に持っていってから戻ってきた彼が手を伸ばして彼女を腕の中に閉じ込めた。ポスターを大事そうに袋に戻して薫の抱擁に応えて抱きしめ返すと更にきつく抱きしめられ、彼女は訴えるような眼差しで彼を見上げるのだった。
「薫くん、抱きしめる力強すぎて苦しい」
「ごめんごめん」と謝って、彼女を抱く腕を緩めてわしゃわしゃと名前の頭を撫で回した薫は視線を合わせると「俺の名前ちゃんが可愛すぎて手加減が出来なくなったんだよ」と悪戯っ子のように笑った。
「どうして、そんなに笑い堪えてる表情なの?」
「だって、毎日一緒に居る俺のポスターなんていらないでしょ?サインなんていくらでも書いてあげられるのに、すごく嬉しそうだったから面白くてさ…」
「それは分かってるけど。欲しかったんだもん」
To be continued…