欲しいのは君
名前
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―「あんなに綺麗なおねーさん、センパイには勿体ないネ」
センパイのくせニ、何様のつもりなのかナ?と、後輩の逆先夏目に言われた言葉を思い出して、今更後悔している。本日はいよいよ名前との遊園地デートだ。「チケットを二枚貰ったから一緒に行こう」とせがまれて、断れずに承諾してしまったのである。
「あ、えっと…その服装可愛いですね」
「ありがとう。デートだから、少し気合い入れてきちゃった」
付け焼き刃でも、デートの予習をしておいて正解だったな。とつむぎは少しホッとした。彼女を迎えに行った彼は、穏やかな日差しの中で現れた名前に思わず見惚れた。上品なメイクと巻き髪、華やかなスカート姿がとても似合っている。いつもとは違う彼女の格好には勿論のこと、お礼を言って嬉しそうにしている名前の様子に…胸が早鐘を打っているのを感じる。駅に向かう道程で、彼女はつむぎの手を握ってきた。自分よりも小さな手を振り解くのも躊躇われて、何も言えないまま駅に到着した。
―「私だって緊張してるんだよ」
つむぎとの初デートなんだもん。と、遊園地の中のレストランで注文した品を待っている間に視線が絡んだ彼女の放った"初デート"という単語に否が応でも名前のことを意識させられてしまう。レストランを出た後からも、彼女はつむぎと腕を組みたがった。休日の遊園地には家族連れは勿論、多くのカップルも見受けられる。その光景を横目に「腕、組んでもいい?」と名前から可愛らしい要求をされた。つむぎが答える前に、一人で腕組みをしていた彼女はボケをかましたつもりなのだろうか。「腕、組みたいんでしょう?」と彼女の手を取り、腕に添えさせれば、つむぎの珍しい行動力に吃驚したのか瞠目しつつも彼女は腕にしがみついた。俺みたいな奴と一緒に居て楽しいんだろうか…と昨夜から散々考えさせられたが、隣で微笑む名前の顔を見て、それは杞憂だったのか。と心が軽くなった。
―「ねぇ。つむぎ…隣に来て」
やっぱり高いところ怖い。と、自分から観覧車に乗りたがった筈なのに、彼女の表情は酷く怯えていた。綺麗な夕陽がガラス越しに反射する空間で、名前の隣に移動した彼は横からふわりと彼女を包み込むように抱きすくめた。腰に回った彼の腕に手を重ねて、安心したのかつむぎを見据えて笑顔を浮かべている。
「高所恐怖症なのに観覧車乗ったんですか?」
下を見ずに遠くの景色だけを眺めていれば大丈夫ですよ。とつむぎから助言され、陽が降りていくのを眺めていると若干震える声で彼女が呟き、つむぎの心はどうしようもない愛しさに埋め尽くされた。
「だって…好きな人と一緒に観覧車乗るの憧れてたんだもん」
好きな人…それは、自分の事なのだろうか。信じられない台詞だからこそ、信じたいと強く願った。いつも素直に想いを伝えてくれる彼女に、こんな曖昧な態度をとっているなんて失礼なのではないか。前々からこの感情には気付いていたが、名前が自分を好いているなんて自惚れかもしれないと弱気になっていた。観覧車の頂上付近に差し掛かった時、「私、今すごくドキドキしてるから、確かめてみて」と、つむぎの手首を握り、その掌を胸に当てさせた彼女の行動はこの美しい景色とは相反するもので、彼は慌てて彼女から距離をとる為に向かい側の席に戻ってしまった。
「ちょ…っ。何するんですか!」
「ドキドキしてたの分かった?」
先程まで怖がっていたのが嘘のように、つむぎの瞳に映る彼女は気持ちに余裕があるように思える。彼ばかり翻弄されて、「ドキドキしたのは俺のほうですよ」と声を荒げた。満足げに笑みを滲ませている彼女を見つめ、黙っていれば美人なのに…と、心底そう思わされた。
「観覧車、もうすぐ着きますね」
「んー。観覧車もう一周しないとエッチ出来ないね」
「そういう問題じゃないんですけど」
To be continued…