砂の薔薇
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
―SSの作戦を企てている時の茨は活き活きとしていた。名前が感じた妙な胸騒ぎも、そんな和やかな日常に掻き消されていた。あのEdenが負ける筈がない。プロデューサーとして、彼らを信じていたのだ。しかし、現実は厳しいもので…。SS当日の思いがけない出来事に、名前は声も出なくなった。Edenは最高のパフォーマンスをしていた上に、実力の差は歴然だった。コズプロの上層部が余計な事をしなければ確実に勝てたであろう。と彼女は唇を噛み締めた。情報操作に踊らされた観客は情に流されやすく、trickstarに票が動くのは仕方の無いことだったかもしれない。それでも、納得がいかない。と、ステージの袖で立ち尽くしていると、唐突な衝撃を受けよろめいた。そんな名前を抱きとめたのはジュンで。先程の衝撃は抱きついてきた日和によるものだったらしい。「名前にそんな顔させたくなかったな」と凪砂が険しい表情の名前を見つめて悔しげに呟く。彼女の髪に触れる優しい手、眼差しは慈愛に満ちていた。一方、今日まで抜かりなく作戦を立てていた茨は腹の虫が収まらず、名前には近寄れないでいた。
「おひいさんが名前目掛けて猛進していったから、焦ったんすよ~」
「名前が泣きそうな顔をしていたからね!ぼくが抱きしめたら笑ってくれると思ったんだね!」
「ごめんなさい。私も悔しくて…。私にとってはEdenが一番で、どう見ても勝ってると思ったから…」
決して涙を流さず。悔しげに、でもEdenを労うことも忘れずに彼女は吹っ切れたような笑顔を見せた。「絶対王者のEdenを差し置いて…」とグチグチ呟く名前に、漸く歩み寄ってきたのは憤りが落ち着いた茨で。自分よりも怒ってくれている人物がいる。と、何だか安心したように彼は目を細めた。他のメンバーはベタベタと名前に抱きついていたが、自分はそういうキャラではない。と、茨は彼女に指一本触れなかった。その代わり名前のほうから飛びつかれ、茨は心臓が跳ねた。幕が遮り、死角になっている場所とはいえ、積極的すぎるのではないか…と。「名前。少々距離が近過ぎるのでは?」と茨が宥めるも彼女は気にしていないようで。「茨もすごくかっこよかったよ。褒め殺しちゃおうかな?」と抱きしめられたままよしよしと頭を撫でられ、茨は固まった。
「こんな不甲斐ない自分を、甘やかすおつもりですか?名前に勝利を捧げたかった…。あなたを笑顔にしたかったのに…」
「こんな時くらい甘やかせて。Edenは…、茨は、不甲斐なくなんてない。それに、最高のパフォーマンスをしたアイドルを褒めたくなるのなんて当たり前でしょ?」
「本来、プロデューサーである私がやるべき、作戦を練ることも茨が全部やってくれてすごく頼もしかったんだよ。それに…」と彼女の言葉はここで途切れざるを得なかった。「ぼくらの目を盗んで、名前を独り占めなんてずるいね!」と日和が現れたからだ。「おひいさんだって、さっき同じように抱きついてたじゃないっすか」とジュンが日和を窘める。茨の表情が柔らかくなっていたことで全てを悟った凪砂は、「茨のこと、お願いね」と名前に耳打ちをして、Eveのふたりと共に先に控え室へと戻っていった。「茨は私よりもずっと頭が良くて、事業経営とか忙しそうなのに、Edenのプロデュース手伝ってくれるし…私、すごく助かってるんだよ」と延々と褒められ、頬を染め上げた彼は限界がきていた。嬉しさよりも恥ずかしさが勝ってしまう。名前の腕の中から抜け出し、文句を言えば彼女はくすくすと笑った。
「褒めすぎであります!こんな自分には、勿体なきお言葉。ですが、やはり褒められるのには慣れませんね…」
「いつも茨が褒めてくれるような感じで再現してみたんだけどなぁ。なにその微妙な反応…」
……To be continued