砂の薔薇
名前
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―時はサマーライブに遡る。名前はEveの付き添いで夢ノ咲に行っているため、ここにはいない。Eden専用ルームではAdamのふたりだけでレッスンを行っている。名前の指定したノルマは既に達成してしまい、休憩していると、スマホ片手に凪砂が茨に声をかけた。「名前がいなくて寂しいんでしょ?」と。「子供じゃあるまいし、寂しいなんてことはありませんよ」と反論する茨に「そっか。私はちょっと寂しいな」と凪砂はしょんぼりとした表情で眉を下げた。スマホの画面をスクロールしながら凪砂が笑みを浮かべて感嘆の声を上げた。「あ。名前が水着着てる」と。興味無さそうにパソコンを弄っていた茨だが、凪砂の一言が聞こえた途端にガタッと反応した。全く動じていないような茨を凪砂が煽る。「水着の名前可愛いよ。見なくていいの?」と凪砂が画面を茨のほうへ向けた。しかし、凪砂の予想に反して、茨は何故か不機嫌そうに顔を顰めていた。
「こんな無防備に肌を晒して…。名前は危機感無さすぎであります」
「…なんで怒ってるの?この写真、茨にも送っとくね」
敵地で無防備な姿になっている名前。その傍に自分が居られないことが悔しかったのだ。夏になってから、名前は「暑いから」と言って露出が増えていたので、その予兆は既にあったとも言えるだろう。夢ノ咲の近くの海ではしゃいでいるような名前の横には日和が写っており、楽しげに腕を絡めていた。今回ばかりはEveのふたりが羨ましかった。それは凪砂も同じ心境なようで、「会いに行っちゃおうか」という提案は本当に実現されることになった。手配した車で現地まで赴く。連絡を受けて合流した名前は驚きながらも嬉しそうな笑顔だ。しかし、Eveのふたりがいる前で凪砂が予想外の台詞を放った。「茨がね、名前がいなくて寂しいって、恋しがってたから…来ちゃった」と。「毒蛇、小さい子供みたいだね!」と日和が。ジュンは「俺達が名前を独占してるから、焼きもちっすか?」と仏頂面の茨をからかう。そんな茨に歩み寄ったのは名前で。
「わざわざ来てくれてありがとう」
「もしかして、閣下の仰ってる事、真に受けてます?そんなに笑って…」
あの茨が、私がいなくて寂しいなんて思うわけない。きっと凪砂先輩の勘違いだろう。と、頭ではそう結論付けているのに、本当に寂しがっていたんだとしたらどんなに嬉しいだろう。と、彼女の表情は綻んでいた。唐突に名前に手を繋がれた茨はぴくりと肩を震わせた。Edenメンバーもいる前で随分と積極的じゃないかと驚いたのも束の間。彼女の思惑を訊いて思わず笑ってしまった。「コンビニの期間限定スイーツで、プリンパフェ売ってたの。一人だと食い意地はってると思われるから、プリン好き代表の茨が来てくれてよかった」と彼女に手を引かれ、茨は高揚感に胸が満たされていた。「俺達は宿に戻るんで、名前不在で寂しかったAdamに譲ってあげます」とEveのふたりは宿泊施設に帰っていく。茨が気を抜いていた隙に凪砂が名前に、茨がどれほど不機嫌で寂しがっていたかを力説していた。急いで「閣下!」と止めに入るも「名前の水着姿を実際に見られなくて相当悔しがってたよ」と、茨がどれだけ否定してももう遅いだろう事は明らかだった。
「へぇ〜。茨がそんなに私の水着見たかったなんて。意外と物好きだね」
「名前、結構本気にしてるじゃないですか」
「凪砂先輩が嘘言うわけないもん。茨も子供っぽいとこあるんだね」
コンビニまでの道程で、茨は名前に延々と説教していたのだが、反対側を歩く凪砂は知らない。「敵地で無防備になりすぎであります」やら「夏になってから、名前は肌を露出しすぎです」と茨のお説教は続いた。しかし、あぁ言えばこう言う。とでも言おうか。「茨はそういう露出にドキドキしたりしないの?男の子はみんな好きなんでしょ?」と茨には下心がないのか探る名前の眼差しはあまりにも真っ直ぐだった。「あぁ言えばこう言うんだから。全然反省してませんね」と茨は小さく溜め息をついた。「新しく買った水着だったのに、似合ってなかった?」と、やはり今回は褒めてくれないのかと何故か虚しい気分にさせられた彼女は、なに不貞腐れてるんだろう。と、気持ちを押し込めるようにプリンパフェを無心で口に運んだ。向かう途中で見つけたそれに、思わず茨の姿を髣髴とさせられたのだ。彼が一緒にいたら自分の我儘に賛同してくれるのでは?とイメージしていただけに、会いに来てくれた時は心が踊ったものだ。
「名前に会えてから、元気になったね」
「プリン食べたから、なのでは?」
本日の茨はペースを乱されっぱなしで、本人はそれがどうしようもなく気恥ずかしかった。まるで自分が我儘を言って会いに来たような証言をされてプライドがズタボロだったのだ。「茨は名前の水着の写真、直視出来ないみたいだよ。可愛すぎるから仕方ないのかもね」と凪砂から更なる追い討ちが。「凪砂先輩は、可愛いって褒めてくれるのになぁ。特技が褒め殺しの誰かさんは何も言ってくれないんだもんなぁ…」さすがに落ち込むよ。と言わんばかりにしょんぼりとしたまま凪砂に手を引かれ店を後にする。茨は黙ったまま難しい表情をしていた。ぼんやりとした明かりの街灯が照らす暗い夜道を歩きながら、Adamのふたりをそろそろ帰さなければと名前は思案していた。いつの間にか停めてあった車に凪砂が乗り込み、茨も続くかと思われたが、彼はまだ名前と向き合っていた。少しくらい褒めてくれてもいいんじゃない?と不貞腐れていた名前を引き寄せ、耳元で茨は穏やかな声で言葉を紡ぐ。
「Eveの面々だけならまだしも、trickstarにまで女神の如き名前のお姿を見られてしまったとは…。自分がその場に居られなくて非常に残念です」
「信憑性がないとか言っておきながらなんだけど。茨に褒められると一番嬉しいんだよね…」
……To be continued