七種茨短編
Edenと後輩
名前
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―同じ中学出身で、しかも部活の先輩でもあった漣ジュンは、現在でも彼女と同じ学校の生徒である。玲明学園一年生の名前の視線の先には、Eveのふたりが揃っていた。面識があるにも関わらず、未だにジュンは名前が同じ高校にいることを知らずにいた。同じ部活だった後輩が自分のファンだなんて気持ち悪いと思われないか心配していた彼女は、出待ちをしてもジュンと話すことが出来ず。なんと日和のファンだと思われていた。ジュンに渡そうと用意していた差し入れも、本人に渡せずに日和に手渡していたのでそう認識されるのは仕方がないだろう。しかしある日、ついにジュンが彼女の存在に気が付いた。
「名前。ちょっと待った」
襟を掴まれた彼女は、ぐぇ。と可愛くない声をあげながら足を止めた。「ぼくのファンに乱暴すぎだね!ジュンくん」と隣にいた日和は驚いているが、ジュンにぐいっと手を引かれた彼女はその隣に並ばされた。「名前は俺の後輩なんすよ。おひいさんよりも俺の方が親しいんすよ」と説明するも、日和は自分のファンを盗られたように感じた為、ムスッとした表情になってしまった。そして、こそっと「アンタ、ほんとにおひいさんのファンなんすか?」と彼に問われて言葉に詰まってしまった。背伸びをして、小さな声で返答をする。「本当は、ジュン先輩目当てです」と。今まで自分と関わってくれなかったことを気にして、呆れたようにジュンは溜め息を零した。「このまま送っていくから、ゆっくり話しましょう」と日和には内緒で告げられた言葉に彼女は頷いた。
―「なんで今まで俺の前に顔見せなかったんすか?」
「だって…ジュン先輩に会うの恥ずかしかったんですもん」
「今更何言ってんすか?馬鹿なんすか」
それなりに親しい間柄なのだから、恥ずかしがる必要もないだろう。と、小馬鹿にしたような発言に名前が反論した。「随分前、ジュン先輩に差し入れ渡そうとしたら「君、ぼくのファンなんだね!そうだよね!」って日和先輩が…」それ以来、日和のファンということにされてしまったと彼女は言う。「それは…おひいさんが悪いっすけど。あの人あの性格だから仕方ないというか…」言葉の端々から、普段ジュンがどれ程苦労しているのかが感じ取れた。「でも俺としては、自分の後輩がおひいさんのファンってことになってるのは気に食わないんすよねぇ」と彼は悩ましげに顔を顰める。そして、名前にとってはとんでもない提案が出された。「罰として…明日、買い物に付き合うこと」と。その買い物というのは、日和に頼まれたもので完全に使いっ走りである。
―「そいつ、俺の連れなんで」
そして当日。名前はジュンがいない間にナンパされていた。表向きはデートではないにしても、二人きりで出掛けるなんてデートと変わりないのでは?と気分が高揚していた彼女は服装にも気合いが入っていた。立っているだけで華やかで、思わず目を引く。こういうときにどう対処したらいいのかと、困惑していた彼女の前に颯爽と現れた人物こそ漣ジュンで。肩を抱かれて相手の男から引き離され、一安心した。その一連の行動はあまりにもかっこよかった為、彼女は目をキラキラとさせていた。「ジュン先輩かっこよすぎ。惚れ直したんですけど、どうしてくれるんですか」と、つい口を滑らせてしまった。惚れそうになったではなく、もう惚れていたということなのか。と、ジュンとしては驚きの発言だった。
「…あ!今のなしで!忘れて下さい」
「惚れ直してくれたんすよね?今のなしは認めないっすよ」
こんなことを言うつもりはなかった。うりうりと乱暴に頭を撫でられた彼女は、ジト目でジュンを見据えた。「戯れ言なのでお気になさらず」と、どうしてもなかったことにしておきたい名前とは裏腹に、なかったことになんて出来るかとジュンは思っていた。気まずそうに、ふいっと顔を背ける彼女の手を握り、歩き出す彼を訝しげな表情で名前が見つめていた。「名前が他の男から声掛けられないように、手繋いでおきますんで」と、どうやらそういう理由があったようだ。きっと二度とあんなことは起きないだろうに、今はジュンの過保護に感謝するしかなかった。
「あれ?名前、身長縮みました?」
「ジュン先輩が伸びたせいでしょ?チビだって馬鹿にしてるんですか」
「アンタ、負けず嫌いな性格変わってないんすね」
END