七種茨短編
Edenと後輩
名前
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―秀越学園で頂点に君臨するユニットAdam。そのメンバー七種茨は、近頃一年生の名前という女子生徒によく声をかけられていた。一度だけ、パソコンのことで手助けしてあげただけなのだが…。「ノーパソが突然フリーズしちゃったんですよ。助けて茨先輩!」と茨はジャケットの裾を掴まれ、やれやれと呆れていた。普段後輩に懐かれることがない為、自分を頼ってくるなんて物好きな人間がいるものだ。と感じていたが、誰もいないパソコン室まで同行した彼は問いかける。「こんな事、自分に訊かずともどうにかなったでしょう?」と。
「茨先輩って、ジャポネットの人じゃないんですか?」
「あぁ…あの通販番組ですか。自分、ジャポネットとは何の関わりもないのでありますが…」
「そんなぁ…。いっつも怪しい業者みたいなパソコンセミナーの話題を持ち出すくせに」
後輩のくせに中々言うじゃないかとくすりと笑って、茨はあっという間にパソコンの不具合を直してしまった。「すごい。茨先輩さっすが〜」とふと画面から顔を上げれば、至近距離に彼の整った顔が迫っており、思わず恥ずかしくなった彼女は手で赤くなった顔を隠す。ふいっと顔を背けて、彼には気付かれないようにしていたつもりなのだが、目敏い茨が見過ごすわけもなく。名前を呼ばれて振り向くと顎を掬われ、強制的に視線を合わされた。「自分から近付いてくるくせに、恥ずかしいんですか?名前さんはおかしな人でありますね」とトップアイドルが故か、彼は彼女の心境を全く分かっていなかった。「先輩、顔が良すぎる。照れるから離して下さい」と狼狽える様子が可愛らしくて、嗜虐心が煽られた茨は中々離れてくれず。彼女は質問攻めに耐えるしかなかった。
「自分、後輩から好かれるような先輩ではないと自覚していますが。どうして自分なんかを頼るのでありますか?」
「そんなの、言わなくても分かるじゃないですか」
好きだからに決まってるじゃないか。頭良いくせに、何故察してくれないのだろうか。と、もどかしくて、ついつい言葉にしてしまった名前は後に穴があったら入りたい程に悔やむことになるのだが、茨としては満足だったようで…。「茨先輩が好きだから…。優しさに甘えたくなったんです」と。小柄な彼女を膝に乗せ、腕の中に閉じ込めた体勢で、茨は愉快げに微笑んでいた。「自分、優しさとは程遠い男ですよ。こんな最低野郎を好むとは、名前さんはどうかしてます」その温かい体温とは裏腹に、まるで自分に近寄るなと警告されているようで、お礼を告げた彼女は逃げるように足早に部屋を出ていってしまった。それ以来、ぱったりと自分の前に姿を見せることがなくなってしまった。勝手に懐かれているだけ。自身にメリットなんてなかった筈なのに、と調子を狂わされる。己でもよく分からぬ感情に悩まされる茨は、ある日廊下で凪砂に呼び止められ足を止めた。
「この子。茨の知り合い?」
凪砂に背中を押され、ずいっと茨の前に差し出されたのは、近頃姿を見せなかった名前で。「こそこそと隠れてたから、茨と話したいんじゃないかと思ってね」と暴露され、ふたりは数週間ぶりに会話を交わした。「こそこそ隠れる必要あったんですか?」「だって…大した用もないのに、馴れ馴れしい後輩だって思われてるんだろうなって…」女子の間で噂されているのを聞いてから近寄れなくなったのだ。名前は七種茨のストーカーだと、ある事ない事言われて気にしていたのだ。「性懲りも無く、こんなことしてごめんなさい」と、その手にはラッピングされた袋が握られており、中身はプリン味のマドレーヌだという。いつものお礼として作ってきたが、いざ渡すとなると萎縮してしまい、以前のように話しかけることが出来なかった。そんな時、凪砂に見つかったというわけだ。
「長い間、名前さんのお顔を見ていなくて、落ち着きませんでしたよ」
「押してダメなら引いてみろとはよく言ったものですね…」
END