七種茨短編
冬企画
名前
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―責任感が強く、長男らしい一番上の兄と違って、巴家の次男の日和は自由奔放で貴族然としている。そして、その兄日和に抱きしめられて目を覚ましたのは妹である巴名前だ。見た目麗しく、アイドルとして活躍している彼は黙っていれば美形なのだが、口を開けば残念な部分が露呈する。寝ぼけ眼の名前が日和に向かって文句を言う。「なんで兄様が隣に寝てるの?鍵をかけた筈なのに…」「昨夜、寒くて寝られないと言ってたのは名前だね!ぼくに一緒に寝て欲しいって言い出せないんだと思って、気を利かせてあげたんだね!」と寝起きには見えない程に清々しい笑顔で彼は告げる。兄妹とはいえ、年頃の男女が同じベッドで寝るなんてありえないと彼女は思っているのだが、日和のおかげで温かくてよく眠れたとも言えるかもしれない。と楽観的な思考が浮かび、今度は彼女のほうから日和にくっ付いた。「兄離れが出来ない名前は可愛いね!流石はぼくの妹だね!」とご満悦な彼に頭を撫でられて目を細めた。日和はシスコンであり、名前もなんだかんだでブラコンなのでお互い様といったところだろう。
「今日はジュンくんにお使いに行かせた紅茶の茶葉が届く日だね!」
「え!今日ジュンくん来るの?そういう事は早く言ってよね」
「なんでそんなに嬉しそうなの?名前の好きな人がジュンくんなわけないよね!」
図星である。日和の妹名前の意中の相手は日和のユニットパートナー漣ジュンなわけだが、勿論そんな事明かせるわけがなく今に至る。「ううん。ティーパーティーが出来るなって嬉しいだけ。私の好きな人、ジュンくんじゃないよ」日和の扱いに慣れているだけあって彼を窘めるのはお手の物だ。しかし、余計に深みに嵌っていく。これではいつまで経っても言えないだろう。そろそろフィアンセを…と、話を持ちかけられているが、どうしてもその気になれないのだ。名前が乗り気ではないというのもあるが、「名前が婚約なんて早すぎるね!相手はぼくが認めた男じゃないと許可しないね!」と日和が庇うせいもあるだろう。「ねぇ、兄様は許嫁作らないの?引く手あまただと思うけどなぁ…」矛先を自分から逸らす為に、そう問掛ける。
「ぼくはアイドルだからね!みんなの巴日和じゃないとファンが悲しむね!」
「それに、ぼくには名前がいるからフィアンセなんていらないね!」とわりと本気で言っているようなので逆に心配になった。そして、今朝のことをジュンに相談したら彼にドン引きされることになってしまったのである。「おひいさんならやりかねませんよねぇ。本当大変っすね」と同情された。ジュンと少しでもいい雰囲気になっていると、兄が見逃すわけもなく、ジュンに見せつけるように抱き竦められた。「名前が淹れた紅茶が飲みたいね!」と早速我儘発動であるが、彼女は嫌な顔一つせず準備を進める。その間はジュンが手伝ってくれる事もあり、チャンスだと確信したのだ。二人きりのキッチンで、彼女はジュンに距離を詰めて口元にクッキーを運んでいく。「私が作ったんだけど、味見して」と。普段はお菓子作りなんてしない為、試しに作ったものがジュンと日和の口に合うか心配だったのだ。「美味しいっすよ」と仲睦まじいふたりだが、その光景を目撃した日和は不機嫌な表情だ。
「名前と仲良くするなんて、ジュンくんのくせに生意気だね!」
「味見してもらっただけだよ。兄様、ご機嫌直して」
だが所詮、名前の中での方程式は変わらないのだ。ジュンとの進展よりも日和の機嫌を尊重してしまう。膝の上に座らされ、クッキーを「あーん」してあげるというシチュエーションは、まるで恋人同士のそれである。「美味しいね!名前は天才だね!」と妹を可愛がりながら優雅なティータイムを過ごす彼とは違い、名前はジュンと視線が絡むと苦笑いを滲ませていた。「用が済みましたし、俺は帰りますよ」とジュンが帰ってしまったことで、彼女のテンションはガタ落ちしている。そんな様子に気付いた兄は、名前をお姫様抱っこしてベッドの上に優しく下ろした。そしてそのまま、押し倒しているような体勢で名前を見下ろす。兄妹でこの体勢は由々しき事態なのでは?と焦る名前だが、頬にキスを落とされて口を噤むしかなかった。
「名前が憧れると言っていた場面を再現してみたね!」
「兄様。兄妹でこの距離はさすがにやばい」
「名前。やばいなんて汚い言葉、使っちゃダメだね!」
END