七種茨短編
冬企画
名前
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―「抱き着く相手が間違ってるでしょ?」
「あ〜寒い寒い」と登校してきた名前が友人に抱き着けば、面倒臭そうな反応をされた上に冒頭の台詞を返された。そしてそのまま、丁度教室に入ってきた茨のほうへ背中を押されて抱き留められた。訝しげな表情を浮かべている彼に「名前が寒いとか人肌恋しいとか言ってんの。七種くんに温めてほしいってさ」とあることないこと言われるも、それを真に受けた茨は彼女を抱きしめたまま離そうとしない。「誰もそんな事言ってないし、茨も真に受けすぎ。離してよ」と身動ぎするが、「寒いなら、自分が温めて差し上げますよ」と抵抗も虚しく茨に抱きしめられたまま彼の体温を感じる。悔しいけれど、温かくて心地良い。場所は教室であり、人目に触れてはまずいと感じた彼女は忠告する。「場所を弁えてよ。誤解されるでしょ?」と。「では、場所を変えましょうか」と手を引かれて連れ出された。微笑ましげに笑いながら「行ってらっしゃい」と、友人は手を振っている。
「ねぇ、茨。もう温まったから、いいよ」
付き合っているわけでもない茨に抱きしめられたり、手を繋がれたり…あまりの羞恥心に耐えきれないと声をかける名前は彼の思惑には気付くわけがなかった。普段はそうそう二人きりになんてなれるわけがなく、想い人である名前に迫るなら今がチャンスだと、茨は確信していたのだ。自分よりも小さな手、細い指、少し冷えた指先。全てが愛おしくて誰にも触れさせたくないという束縛心が顔を出す。「自分と二人きりでは困る事でもあるんですか?名前は自分の事など眼中にないでしょう?」とEden専用ルームに入ってからの第一声に彼女は首を振った。「私が茨に興味がないとでも思ってるの?残念だけど、大ハズレだよ」と。もうどうにでもなれと自暴自棄になりながら彼女は告げる。逃げようとするも「名前の居場所はここでしょう?」と腰を掴まれ、膝の上に誘導されてしまった。背中を彼に預ける姿勢になり、腰に回された腕、手も彼の手に包み込まれて身動きが取れなくなった。
「茨あったかいね。子供体温だからか」
「名前が体温低いだけでしょう?それに、名前のほうが誕生日遅いくせに」
彼をからかうような言動をする理由は、軽口を言っていないと気が紛れなかったからだ。アイドルとプロデューサーという立場上、懇意にならないように努めていたのに、その決意は呆気なく崩れ去ってしまう。重ねられた彼の手を握って、彼女は幸せそうな笑みを浮かべる。しかし、耳元で囁かれた言葉を聞いて思わず気分が高揚してしまい、たどたどしく返答をする。「肌を重ねるのが一番手っ取り早いそうですが、試してみますか?」「肌を重ねるって…やっぱりそういうこと?」このまま茨と人には言えないような関係になってしまうかも…と、際どい想像が頭を過ぎる。初めては好きな人に捧げたい。いや、私ったら何を考えているんだろう。悶々と考えていれば、彼に笑われた。「もしかして、いやらしいこと想像してるんじゃないですか?」
「茨が変な事言うからいけないんでしょ?」
「変な事なんて言ってません。名前の発想が不埒なんですよ」
「やだもう。離して」と、ここにきて初めて抵抗する素振りを見せた名前は、意外にもあっさりと手放され、ほっとしたような、だが物足りないと言いたげな表情で茨のほうへ振り向いた。「私が何を想像してたか知りたい?」隣に座り、こてんと彼の肩に凭れかかって問いかける彼女に茨は頷きながら「自分は女心に疎いところがありますから、是非教えて頂きたいですね!」と内心わくわくしていたのだが、その期待は呆気なく裏切られた。「教えてあーげない」と、くすくすと笑って席を立とうとした名前は、逆に毒蛇の罠にかけられていたのだった。後ろから腰に腕を回され、頬に触れた手で顎をくいっと持ち上げられ、強制的に視線を合わされる。
「名前が想像したであろうことを推測した自分が忠実に再現させて頂きますが、文句はないですよね?」
END