七種茨短編
巴日和
名前
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―「君ほどの美しい女性が壁の花になっているなんて勿体無いね!」
クリスマスパーティーであるにも関わらず、気乗りのしない彼女は周りの令嬢達のようにダンスに興じる気になれず、ぽつんと壁際に佇んでいた。そんな彼女に日和が声をかけた。ちらりと彼の顔を見て、「ダンスなら他の御令嬢としたらいかがですか?」と素っ気ない返答をされたのを彼は鮮明に覚えていた。数年前、渋々出席した社交界で、自分の誘いを断わった不躾な少女のことが忘れられず、彼は今年のクリスマスパーティーへの参加を決めた。
「この僕に声をかけられるなんて、光栄に思うといいね!」
冷めた目をした彼女は「うわ、何この気高い人。関わりたくない」という本音を押し殺して自分にダンスを申し込んできた相手を一瞥した。その顔には見覚えがあり、巴日和だと知っていると共に、彼がアイドルをしていることも知っていた。だからこそ、彼女にとっては何故自分に声をかけたのか見当もつかない。口をついて出た台詞はあの時と同じように冷め切っている。「私は踊る気になれないので、お断り致します」と。ワルツの旋律と共に踊っている周りの令嬢と御曹司とは違い、彼らには異色の雰囲気が漂っていた。
「あなたと踊りたい御令嬢は沢山居るでしょうから、他をあたってはいかがです?」
「数年ぶりに会ったのに、相変わらず不躾な娘だね。ちょっと悪い日和!」
あの時の雪辱を果たすと決めたからには、君を諦めるわけにはいかないね。と彼は一向に退こうとはせず、更にぐいぐいと自分のアピールを始めた。「Eveのことは君も当然知っているよね?すなわち、僕のことも知ってるに決まってる」と自信満々な彼の言葉を受け流しつつも、彼女は数年前のクリスマスパーティーでの出来事を思い出していた。あの日あの時、手持ち無沙汰にしていた自分に声をかけてきた一人の御曹司の存在。奇特な人だと、感じながらももう一度会ってみたいと考えていたのも事実だった。
「あなた、数年前も私に声をかけてきましたけど…数いる令嬢の中から私を選ぶなんて随分と趣味が悪いですね」
「確かに君のそういう反応は可愛くないね!だけど、僕も認める美しさであることには変わりないね。自信を持つといいね!」
若干のウザさを感じるが、この人は自分を褒めてくれている。それも、自分なんぞよりも明らかに美しい容姿をしているのに、だ。社交界なんて面倒くさいと思っていたが、今夜は楽しい夜になりそうだ。と、壁の花が一転、くすりと微笑んだ彼女が日和とダンスフロアに繰り出す。周りの人々の視線は明らかに彼らに向けられていた。
「二度も誘ってくれてありがとう。日和くん」
「君は笑ったほうがずっと可愛いね!僕が保証するね!」
軽やかにステップを踏みながらお礼を告げる彼女の姿に彼は、漸く自分を受け入れてくれたと安堵したと同時に、彼女を手に入れたいという衝動に駆られ、彼女の細い肩に触れる彼の手はより一層彼女を強く抱き寄せるのだった。
END