七種茨短編
春企画
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―「ジュンくん。あんまり凝視しないでくれる?」
冒頭の台詞はEdenのプロデューサー名前のものである。因みに、彼女はEveのふたりと同じく玲明学園に所属している。いつもなら、メイクもばっちりでマスクもつけていないのだが、春になってから花粉症になってしまったらしくアイメイクも満足に出来ず、ベースメイクだけしかしていないので、まるで、すっぴんのようだ。と内心とても不満足だった。隣の席の漣ジュンは、いつもとは雰囲気の違う彼女が珍しく、ついつい視線を向けてしまったのだが、そこは名前の女心というもので…。好きな人の前ではいつでも可愛くいたいものだ。マスクで隠れているとはいえ、鼻のかみすぎで赤くなってしまった鼻、涙の滲む目元…こんなみっともない顔は見られたくなかったのだ。「今日、化粧薄くないっすか?」とジュンは何も、悪気があって訊いたわけではないのだが、その言葉に彼女は顔を顰めた。
「花粉症のせいで、いつものようにお化粧出来ないからさ。不細工な顔見られたくないんだよね」
すっぴんには自信がありません。とばかりに苦笑するが、それに反して彼は「そんなことないでしょう」と彼女を励ます。「ジュンくんは、私の化粧した顔しか見たことないからそう思うんだよ」自分の化粧していない時の顔を見たらジュンだってきっと吃驚するだろう。と思い込んでいた彼女は、今しがた彼から告げられた一言を素直に受け止められなかった。「絶対そんなことないんで、俺だけに見せてくれません?」と懇願され、見せれば納得するだろう。とホームルーム終了後、ふたりは空き教室に入っていった。マスクを外して彼と向き合う彼女の予想は見事に裏切られた。「ほら、思った通り。化粧なんかしなくても名前は綺麗っすよ」と。「そんなお世辞嬉しくないもん。ほんとのこと言って」と名前はムスッとするが、両手で頬を包まれ、真摯な眼差しと視線が絡むと何も言えなくなった。茨の褒め殺しと違って、ジュンの言葉なら信用出来ると思っていたのに、不思議なものだ。
「確かに、いつもより幼くは見えるけど、俺は化粧してない名前も好きっすよ」
「ありがとう。ジュンくん」
こんな可愛い顔、知っているのは自分だけでいい。ジュンは心底そう思わされた。と、いうのも…Edenで花見をするという事案に起因していた。このまま花粉症が酷ければ、いつもの化粧を施していない名前を他のメンバーにも見せることになってしまうからだ。「病院で薬処方してもらったほうがいいっすよ。おひいさんが、名前の手作り弁当が食べたいやら、Edenで花見したいとか言ってたんで」とジュンは言及した。彼女はそれに頷くが「私の料理、口に合うか保証出来ないよ?」と小首を傾げて笑った。「名前の差し入れ、いつも美味しいんだから大丈夫っすよ」とジュンが言うように、名前の女子力は高く、手作りの菓子が美味しいとEdenでは評判も良かった。
「お菓子作りと普通の料理って違うから…。期待に応えられるかな?」
「おひいさんだけじゃない。俺だって、名前の手料理食べたいんすよ」
好きな人に手料理を食べてもらえるチャンスだ。と意気込んだ彼女は自分をじっと見つめる彼の前で照れ笑いを浮かべ、「ジュンくん。距離が近いんですけど」と呟く。「せっかく名前とふたりきりなんだから、いいじゃないすか」と事も無げに彼は言うが、名前からしてみれば想い人と密室に二人きりという状況は心臓がもたないと感じていた。壁を背に立つと、所謂壁ドンの体勢で彼は彼女との距離を縮めた。鼻先が触れそうな至近距離に彼の端正な顔が迫る。「ねぇ、もうマスク付けていい?」「いいっすよ。ただし…その顔、俺だけにしか見せないでくださいね。可愛すぎるんで…」
「やめて。好きな人から褒められたら、照れるでしょ?」
END