七種茨短編
乱凪砂
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
―「ねぇ、名前。キスさせて」
冒頭の凪砂の台詞に、何も言えず固まった。彼とは付き合っているわけでも何でもなく、アイドルとプロデューサーという関係なのだから無理もない。咄嗟に拒否しない理由は明確だった。凪砂のこんなお願いを断るのは勿体ないからだ。彼のことは好きだけれど、これが恋愛感情なのかは定かではない。ここは事情を知っていそうな茨に訊いてみるか。と、凪砂には待っていてもらい、とりあえず判断を仰ぐことにした。「閣下は今度出演するドラマの役作りがしたいのでしょう。練習相手になって下さいますか?」と、真相が明らかにされたが、まだ困惑していることには変わりない。部屋に戻るや否や期待感の篭った視線を向けられ、もう逃げ場がなかった。
「私なんかで練習相手になれるかなぁ…?」
「私…名前以外の人と練習したくない。だからお願い」
凪砂の懇願に彼女は滅法弱かった。身長の高い彼と向き合うと、腰を抱かれて後頭部が支えられた。背伸びをすると彼の端正な顔が近付き、やがて唇が重ねられた。これがファーストキスだってバレないかな…などと頭の片隅で慌てふためいている彼女とは対象的に彼は嬉しそうな笑顔で。一度だけで終わりだと思っていたが、その予想は大きく外れた。「もう一回していい?」と問われ、答えるよりも早く口付けは落とされていた。それに、今回は先程よりも深いもので、舌が唇を割って入り込んでくる。キス初心者の彼女には刺激が強く、思わずポーっとしてしまう。リップ音がいやらしく耳に響く。熱い舌が絡まり、息も絶え絶えになった頃、漸く唇が離された。
「凪砂くん…ドラマでこんなキスするつもりなの?」
「違うよ。最初にしたのと同じキスだけど…」
「名前が可愛いから、つい…試したくなったんだ」と悪びれもなく告げられると、責める気にもなれず。ヘナヘナと彼の胸板に凭れかかった。凪砂の匂い、大きな掌…全てが愛おしくて堪らなくなった。こんな練習も今回だけで終了すればよかったのだが、ある日の練習途中、Eveのふたりに凪砂と名前がキスしている場面を目撃されてしまったのだ。「ナギ先輩と名前さんて付き合ってたんすか?」と、「ぼくらに内緒にしてたなんて酷いね!悪い日和!」と誤解されてしまったのだが、当の本人は表情ひとつ変わらない。「これにはね…事情があって…演技の練習をしてただけ」と説明するも、凪砂から爆弾発言が投下された。
「名前は私のだから…」
「え…っ。これって演技の練習じゃないの?」
END