七種茨短編
乱凪砂
名前
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―凪砂くんはこんな支配者キャラだっただろうか。出会ったあの頃は可愛かったなぁ…などと、Edenでの乱凪砂の姿に違和感を感じる人物がここにいる。名前は乱家の隣人であり、高校生だった当時…隣の家に養子として引き取られた彼と初めて対面した。なんて美青年なんだと惚れ惚れしたのを覚えている。歳が近いから仲良くしてあげて。と、彼の両親に言われていたのもあり、だいぶ親しくしていたのだが、社会人になってからというもの、その彼とは疎遠になってしまった。Edenでの凪砂の活躍は逐一チェックしているのだが、何だか遠い存在になってしまったなぁ…なんて寂しくも思っていた。凪砂くんは私の事など忘れてしまったかもしれないな…などと考えながらシチューの入った鍋を混ぜていた刹那、インターホンの音が部屋に響いた。来客なんて珍しい。そう思いつつ扉を開けると想定外の人物が立っていた上に、その人物に抱き竦められて思考が停止した。
「名前さん。ずっと会いたかった…」
「凪砂くん。私も、会いたかったよ」
外は寒いから急いで彼を部屋に上げるが、それでも腕を離してくれない。冷えた空気を纏った彼の体温が伝わってくる。随分と身長が伸びたものだ。と、彼を見上げると視線が交わった。「どうしてここに?」と訊ねると「名前さんに会いたくなって。茨にも協力してもらった」と七種茨の情報網に驚きながらも彼との再会が実現して願ったり叶ったりな展開になってしまった。相変わらずの美しさ。抱きしめてくる腕も、重なる肌も大人の男性らしさを感じるのに、どこかあの頃の面影も重なって愛おしくなる。イケメンに耐性がなかった彼女はノックダウン寸前だったが、更なる試練が彼女を待っていた。夕飯を一緒に食べようと用意しようとすれば、やけに多い彼の荷物に目が留まった。「凪砂くん。やけに荷物多いんだね」と遊びに来たにしては…とそれとなく促せば、彼は何食わぬ顔で「お泊まりセット。持ってくべきって茨にも言われたんだ」と、どうやら泊まる気満々でここに来たらしい。
―「名前さんの料理、本当に美味しい」
「それはよかった。ありがとう凪砂くん」
温かいクリームシチューが身体に沁みる。凪砂と食事を共にするのは何年ぶりだろうかと懐かしくて泣きそうになった。こんな家庭料理、彼の口に合うだろうかと心配していたのは杞憂だったようだ。成人して、彼の性格は変わってしまったのかと思っていたが、思い違いだったようだ。幼い子供のような純粋な性格は変わっていないらしい。しかし、純粋無垢な故に困ることもある。名前はソファーで寝ようと思っていたが、「一緒に寝てくれるでしょ?」と彼に抱き上げられてベッドに引きずり込まれたのだ。恋人がいないとはいえ、男女が同じベッドで寝るなんて…と、躊躇いまくりの彼女に、彼は「ねぇ、だめかな?」と子犬のような可愛い顔でねだってくる。名前は凪砂のお願いにはめっぽう弱かった。「名前さんて小さくて可愛い」と布団の中で彼女を腕に閉じ込めたまま彼が呟く。
「私ね…今度お見合いすることになったんだ。凪砂くんには関係ない話だけど…」
20代半ばで恋人もいないから仕方ないのかもしれないが、気が進まなかった。相手の男性はそれなりの家柄の人で、しかも名前の写真を一目見て気に入ってくれたという話なのでトントン拍子に縁談の話になってしまったのだ。好きな男性がいるわけでも、一人で生きていけるほど強いわけでもない。それなのに我儘な悩みだろうかと暗い気持ちになりかけた時、視線を伏せていた彼女の額に彼の唇が触れた感触がした。そして現在、視線の先には自分を組み敷く凪砂が。唐突な展開に頭がついていかない。このまま凪砂と一夜限りの関係になってしまうかも…と覚悟していた彼女の頬を優しく撫でて彼は微笑む。「お見合いなんてしないで。名前さんには私がいるでしょ?」と。こんな会話、寝惚けているだけで、朝になったら忘れているものだと思っていた。それなのに、色んな意味で期待を裏切られた。彼は昨夜の会話を何一つ忘れてなどいなかったのだ。
「同じベッドで寝ても手を出さなかったのは、私に色気がないから?」
「ずっと、我慢してただけ。名前さんは、私の初恋の相手だって知ってた?」
END