七種茨短編
巴日和
名前
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―幼少期はべったりと仲の良かった筈の男の子を現在では一方的に避けまくっているのだから人生ってわからないなぁ…なんて溜め息をついてぼんやりと天井を見つめる。その相手というのが、巴財団の次男巴日和であり、今をときめくアイドルグループEdenの一員であることも知っている。「名前ちゃんは将来、ぼくのお嫁さんになるんだからね!」「ぼくに愛される幸せを噛み締めるといいね!」と、可愛らしい思い出はよくよく考えてみると、どの発言も自己中心的すぎたのでは?と笑ってしまうくらいだ。
「ぼくを避け続けるなんて、酷いね!昔はあんなに仲良くしてたのにね!」
「ごめんごめん」
この歳になると、夜会にて徹底して日和を避け続けるのは最早不可能で。本日、彼の腕に捕まってしまった。口を開けば文句を言われ、謝ると「心が籠ってないね」と不機嫌にさせてしまった。腰を抱かれ、顎をくいっと持ち上げられ、端正な顔が目前に迫る。じっと見つめられたと思えば、こつんと額を合わせられて耳元で囁かれる。「ぼくが好きになった名前ちゃんは、今でも可愛いままだね!」と。大人びた雰囲気の日和に久しぶりに再会して、色気のある手つきで触れられて、長年胸の奥で燻っていた想いが溢れ出してしまいそうになるのに、その台詞でトドメを刺された。
「どうしてそんな泣きそうな顔をするの?ぼくに会えたんだから、笑顔になってもらわなきゃ困るね!」
「私やっぱり日和くんのこと…っ」
日和くんのこと大好きだなぁ。なんて、言える筈もなく、その言葉が途切れた。「ね、ダンスの相手になってよ」と話をはぐらかす彼女を、日和をはぎゅうっと抱き竦めた。周りはダンスに興じており、この空間はふたりだけの世界と言っても過言ではなかった。「ぼくのことが何?その台詞の続きを教えてくれなきゃ、このまま離さないね!」と我儘発動である。だが、彼女は日和に困らせれているのに口元は緩んでいて、どう見ても彼に絆されているのは明確だった。
「日和くんのこと、苦手だなぁ…なんて」
今更好きだなんて言えないと心にもない台詞を呟けば、すかさず「嘘はよくないね!」と。全てを見透かしたような眼差しで咎められてしまい、潤んだ視線で日和を見つめ「だって…今更、好きだなんて言えないんだもん」と白状するしかなかった。しかし、彼としては大満足だったようで、人目も憚らず名前の唇が奪われた。
「名前ちゃんはぼくのお嫁さんだからね!キスくらいしてもいいよね」
END