七種茨短編
七種茨
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
-「茨。起きてたの…!?」
冒頭の台詞はベッドからそろりと抜け出そうとした名前のものである。朝食を作ろうとしていた彼女だが、隣で寝ていた茨が目覚めていたとは知らず、ギューっと抱きしめられ動けなくなった。顔も洗いたいし洗面所に行きたいのに何すんだ。と彼女は不満げだったが「自分の気が済むまでこうさせてください」と、珍しく彼が甘えてくるものだから暫くは彼の温かい腕の中にいることにしたのである。「夜も中々寝かせてくれなかったくせに、我儘な」と昨晩の営みを思い出して気恥しい気持ちになっていると意地悪な一言が聞こえた。「名前が淫乱なのが悪いんでしょう」と彼はにやりと微笑む。むぅ、と唇を尖らせて不貞腐れたように彼女は反論する。「茨が絶倫だから、それに付き合ってあげただけ」と満更でもないのか文句を言うわりに口元は緩んでいる。
「自分と結婚したこと、後悔してますか…?」
本日は茨の誕生日であり、いっぱい甘やかしてあげようと決めていた彼女は予想だにしなかった彼の言葉に困惑した。世間には秘密で籍を入れ、幸せな新婚生活を送れていると思っていただけにショックだった。「なんでそんなこと訊くの?後悔なんてしたことないよ。ただ、私が相手でよかったのかなって思うだけで…」と、名前が赤裸々に想いを明かしていくと彼は面食らったように眉を顰める。「こんなに可愛い奥さんがいるなんて、自分は幸せ者ですね。それと、名前は謙虚すぎますよ」と彼女の髪を指で梳きながら愛しげな眼差しで名前を見つめると彼女のほうから唇が重ねられた。「そういうとこ、昔から積極的ですよね」と茨は「こういうことは男からするものなんですけどね」と諦めたように苦笑した。
「いいの。好きになったのも私のほうが早かったんだもん」
「何言ってんですか。自分のほうが先でしたよ」
どちらが先に好きになったかなんて、どうでもいいような内容で張り合うふたりは傍(はた)から見たらとても幸せそうだ。「私はね…茨が生まれてきてくれて、出逢うことが出来てよかったって心から思ってるよ」と、今度は彼女が茨をギュっと抱きしめた。「お誕生日おめでとう。茨」と、耳元で囁いて彼と視線を合わせると潤んだ瞳と視線が絡まった。「泣きそうになってるの?可愛い反応」と名前はからかうが、茨としては思うところあった為、彼は本音を明かす。「名前もご存知のように、自分は散々な生い立ちでしたから…こうして誰かが誕生日を祝ってくれるなんて名前が初めてなんですよ」と。「ほら、誕生日くらいいっぱい甘えてくれていいんだよ」と茨を抱き寄せてぽんぽんと頭を撫でると、茨は大人しく名前の胸に顔を埋めた。
「こうしてると、安心しますね」
「私も。今すごく幸せ」
END