七種茨短編
七種茨
名前
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-秀越学園2年S組、Edenプロデューサーの現在の悩み事は、とてもじゃないがアイドル達に相談出来るものではない。相談したところで馬鹿にされるに決まっている。と、彼女は思っている。イケメン揃いで経験豊富そうな彼らと彼女の大きな違い。それは、初体験はおろかファーストキスもまだであるということだ。理想が高すぎる為か、中々恋人が出来ないのである。そんな名前の想い人は自分がプロデュースしているEdenの七種茨だ。
「茨なんか一番馬鹿にしてきそうじゃん!「処女なんて、モテないんですね」とか言いそう」
「アンタ、ほんとにその人のこと好きなの?さっきから悪口しか言ってないけど…」
名前の相良き談相手…近所に住む梨花は幼馴染みであり現在は彼氏持ちということで、名前の恋愛の悩みを聞いてくれることが多かった。だが、梨花が不思議がるのも無理はない。茨がかっこいいという話ではなく、基本的には彼の悪口しか話が出てこなかったからだ。「だって、茨の良いところって…顔面と声と頭の良さくらいだと思うし」と珈琲片手に物憂げな溜め息をついた彼女。「それで、茨くんのこと好きなの?そこんとこはっきりしてよね!」と姉御肌な梨花が問い詰めると、にやりと笑った彼女は予想外な発言をするのだ。「好きっていうか…抱かれたいとは思う」と。
「ヤりたい盛りの男子高校生か!それって恋愛してるわけじゃないじゃん」
-「ん~。分っかんないなぁ…」
ところ変わって、秀越学園。ミーティングの為に一室に集まっている。そんな中、彼女はなんとなしに呟いた。昨日、幼馴染みに相談して…余計に分からなくなったのか悩ましげに瞳を伏せる。名前の独り言を聞いていたのは、隣に座る茨だった。ミーティングは滞りなく終了したというのに、何か納得のいかない事でもあったのだろうか。と、彼は問いかける。「何かお悩みですか?」と。間近に迫る彼の整った顔、真っ直ぐに向けられた眼差し。なんだか落ち着かない気持ちになった。「いや~。悩みって程のものじゃないし、プロデュース関係の事でもないから」と、彼女は言い淀んで本当の事を明かさない。いや…そもそも明かせるわけがないのだが。茨は相当知りたいようである。
-「もしかして…恋愛の悩みなのでは?」
ぎくり。そんな擬音が聞こえそうな程に、彼女が動揺したのが茨には分かった。恋愛の悩み…すなわち名前に好きな相手、もしくは恋人がいるということだ。そう推測した瞬間、彼は自分の失恋を予感してしまった。そして、自分のような男を名前が好いてくれるわけがないか。と、嘲笑した。想いが通じないからこそ、知りたかったのだ。相手の男がどんな奴なのか、自分の知っている人間なのかどうかを…。故に、わざと彼女の悩みを訊き出すことにしたのである。だが、彼の胸に一抹の不安が募る事には変わりなかった。もし、Edenのメンバーだったらどうしたらいいのだろうか、と。しかし、名前の返答は全くの予想外だった。「好きな相手が経験豊富そうな場合、私は相手にされないんじゃないか…という事で悩んでるわけなんだけど」と明け透けに告げる彼女の言葉に、彼は思わず耳を疑う。どんな軽薄な男に惚れているんだ。と表情が険しくなった。
「変な男に引っかかるのだけはやめてくださいよ」
「じゃあ茨に訊くけど、抱くなら処女と非処女どっちがいい?」
部屋には自分達だけしか居ないので、少々危なげな内容を話してもいいだろうと判断した彼女はついに核心に触れる。彼は「なんて下世話な質問するんですか!」と、名前の考えている事が理解出来ないと言いたげに訝しげな視線を向ける。そんな視線を受け止めて、彼女は正直に答えることにした。「経験豊富そうな茨のことだから、処女なんか相手にしたくないんでしょ?」と。自暴自棄になっていた彼女は、その発言で自分の気持ちが彼にバレてしまったとすぐには気付けなかった。名前の焦燥感をよそに、茨は満足げに微笑む。「つまり…名前の悩みは、自分にまつわることだったんですね」と、彼はいたたまれなくなって俯いてしまった彼女を一瞥して告げる。
「名前に経験があろうとなかろうと、関係ありませんよ。あなたを大切にすることには変わりありませんからね」
「私…やっぱり茨が好きだよ。抱かれたいと思うくらいにね…」
「そんな事を言われて平然としていられるほど、自分は優しくありませんよ」
椅子を近付け、彼女の頬を包み込んだ彼が荒々しく唇を重ねた。名前にとってはファーストキスだった。上手なキスの仕方など分からない。差し込まれた舌に舌を絡ませる濃厚な口付けに頭がぼーっとする感覚に襲われた。唇を離されると、妙に名残惜しくて、訴えるような視線を彼に向ける。だが、「欲しいなら、言葉にしてくださいよ」と彼は愉快げに口角を上げて微笑むだけだった。
END