七種茨短編
乱凪砂
名前
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-「責任を取って、名前と結婚するから安心して」
冒頭の凪砂の台詞に、「何言ってるの。そんな大袈裟な…」と名前は驚き半分呆れ半分といった様子で彼を窘める。事の発端は、予定よりもたいぶ早くレッスン室に到着した名前がそこで着替えていたことから始まる。予定通りの時刻に部屋に着いた凪砂が扉を開けば、上半身は下着姿で、着替えている最中の彼女に遭遇してしまった。そもそも、更衣室へ行かずにそこで着替えていた名前が悪いのだが、責任を感じている凪砂は納得してはくれない。そんな状況下でEdenのメンバーが続々と部屋に入ってくる。「凪砂くんは名前と何を話してるの?」と意気揚々と巴日和が現れた。ことの経緯を説明するや否や、「凪砂くんは律儀だね!」とあっけらかんと笑われた。日頃「閣下閣下」とうるさい茨はと言えば、「閣下に貰って頂けるなど、光栄に思うべきですよ」とこちらも賛成派である。着替えを見たくらいで、そこまで責任を取らなくてもいいじゃないかと考えている自分は間違っているのだろうか…と難しい表情をしている彼女はジュンに助けを求めようと視線を巡らせる。しかし、間近に迫るのは凪砂の綺麗な微笑みだった。「私も名前も、結婚出来る年齢なんだし問題はないよ」と無邪気な様子で的外れな事を告げられる彼女は、もうどう対処していいのか分からなかった。
「凪砂くん。そう言ってもらえるのは嬉しいけど、よりにもよって…私なんかを結婚相手に選ぶ必要はないでしょう?」
「困ったな。私はこの方法しか責任の取り方を知らないんだ」
女性の肌を見てしまったのだから、それ相応の責任は取りたい。と断言する彼はその純粋さ故に考えを曲げられずにいた。誰か助けてと視線を彷徨わせるも、全員微笑ましいものを見るような暖かい目線を向けるだけで、助けてくれるようには思えない。「確かに、嫁の貰い手のない私からしたら願ってもないことだけど…」と次第に彼の言葉が魅力的に思えてきた。だが、凪砂のそれは幼児期にありがちな「大きくなったら○○ちゃんと結婚する」と言うものに近いのかもしれない。期待を込めた眼差しで自分を見つめる彼をどう諌めようかと悩んでしまう。だが、そんな彼女に更なる追い討ちをかけるのは清廉潔白な彼ならではの所業と言えるだろう。
「私と名前の子なら、きっと名前に似て可愛い子になると思うよ」
「凪砂くん、話が飛躍しすぎてるね…」
「閣下もそれくらい本気ということでしょうか」
空気を読むべきだと察した彼らは、二人を残して部屋を出ていく。茨の言うように、「私は本気で言ってるんだよ」と真摯な瞳で彼女を見据えた彼は耳元で囁く。「名前、私のお嫁さんになって」と。彼のしなやかな腕で抱き竦められ、彼女は本当に逃げ場を失った。でも不思議と抵抗しようという気は起きない。彼との結婚生活がふいに脳裏を過ぎり、そういう未来もいいかもしれない。と感じた彼女だが、小さな子供に教え諭すように言葉を紡いでいく。
「凪砂くん、私よりも凪砂くんに相応しい女の子はいると思う。だから、結婚なんて大事なことをそんな簡単に決めちゃだめだよ」
「ごめんね、名前。でも、私には名前以上の女性がいるとは思えない」
「他の誰でもなく、名前がいい」凪砂くんはどうして私が嬉しがるような言葉しか言わないのだろう。と彼女は困らされている状況にも関わらず、目の前の彼が愛おしくて仕方がなかった。「名前は私のこと好き?」不安げなその問いかけに彼女は素直に答える「勿論。大好きだよ」と。
END