七種茨短編
七種茨
名前
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―「名前さんて抱き心地がいいね」
それは私が太っていることを暗喩しているのか。というか、凪砂くんのような美形に抱きしめられると心臓に悪いぞ。私の推しは茨くんなんだけどなぁ…とは言えず今に至る。コズプロアイドル専属のマネージャーになったはいいけれど、推しとは全然絡めない。まぁ、茨くんは事務所の副所長だしな。
「自分相手にそんな緊張しなくても…」
推しを前にしてテンパってるのバレましたわ。凪砂くんに絡まれてる時に茨くんが現れると反射的に隠れたりビクビクしていたからな。そして本日、物陰に隠れてやり過ごそうとしたら呆れ顔の茨くんに顔を覗き込まれて固まった。顔面が良すぎる。推しに認識してもらえたのは嬉しい反面、体勢が壁ドンみたくなっているせいで緊張で冷や汗かいてきた。しかも「閣下とはどういったご関係で?」と、凪砂くんを誑かしている疑惑の目で見られて辛い。
「ただ懐かれているだけというか、茨くんが思っているような関係じゃないです…!」
「名前さんはマネージャーとしても優秀でありますし、自分は貴女と話をしたかったのですが。あまりにも避けられるので…」
「推しを前にしたオタクはこうな…って、あ…今のは忘れてください!」
「へぇ…名前さんの推しって自分なんですね」
推しに知られてしまったぁぁ。私はこの時の不敵な笑みを忘れない。だって翌日からグイグイくるようになってしまったから。あの茨くんがだよ?凡人には興味ありません。て感じなのに何故!?私はいたって普通で優秀でもないしキモオタなので烏滸がましい。
「自分はただ名前さんを困らせてみたくなっただけでありますよ」
推しバレして数日後…_私は苦しんでいた。密室に推しと二人きりという状況に心臓が押し潰されそう。茨くん直々に呼び出されたのは仕事関連の用事の筈。例え仕事でも関わりが持てるのは嬉しいけど、なんか様子が違う。Edenのメディア露出についての相談じゃなかったんかい!とツッコミたいけど無理です。茨くん私のことからかいたかっただけかよ。キモオタを舐めるなよ。推しのことは好きだけど、自分なんぞに好意的な推しは解釈違いなんですよね。
「自分が好意的だと不都合でも?」
「…茨くんが楽しそうで何よりですが、私みたいなブスにグイグイくるのはやっぱり解釈違い」
近寄ってきた彼に顎を掬われ、ジッと見つめられている最中、茨くんのソロ曲の歌詞が頭を過ぎった。“一瞬期待してしまったのではないのでしょうか?”なんて、あの曲の歌詞通りだよなぁ。と、目も合わせられず唇は引き結んだままの私を前に茨くんがクスクスと笑う声が聞こえた。
「名前さんはお美しいでしょう?自分の隣りに並んでも見劣りしませんよ」
「やだやだ。茨くんの隣りになんて並んだら私のブスさ際立つし、そもそも推しの隣になんて並べるわけ…っ」
「幻滅しましたか?こんな最低野郎は自分の推しじゃない、と」
推しに唇を奪われました。これは…試されているのだろうか。茨推しオタクとしての熱量を?年下の男の子にキスされたからって動揺したりしない。だって私は年上女だし。と余裕ぶってみるけれど、心の中は困惑して荒れに荒れている。なんで私にキスしたのか。たとえ遊びのキスでもちょっと嬉しい。いや…複雑で喜べない。そもそも私は茨くんの生い立ちから何もかも知ってる上で好きなわけだけど。
「名前さんって男の趣味悪いんですね」
唇を奪われて茫然自失していた私は足早に副所長室を後にしてヘナヘナとその場で座り込んだ。茨くんにキスされてしまった…と、自らの唇をなぞってみる。幻滅なんてしていない…ただ、すごくドキドキしてるだけ。まるで少女漫画みたいに美化された想像が頭に広がって。あの一方的な口付けが忘れられないなんて馬鹿みたい。ファンをからかっているみたいな茨くんはやっぱり性格悪いかもしれない。
「その待ち受け変えてくれませんか?」
私のスマホの待ち受け画像はプリンのビーンズクッションを腕に抱いている茨くんである。キメ顔写真よりも可愛げがある写真だが、ご本人からNGが出された。というか、勝手に私の待ち受けを見ないでほしい。心の中でせせら笑われていそう。恥ずかしいし顔を合わせづらいのに、めちゃくちゃグイグイくる。なんで!?
「これってファンサの一環ですか?」
手からスマホを取り上げられ、勝手に自撮りモードにした茨くん直々にツーショットを撮られた。距離近すぎる。心臓爆発するわ。スマホを返してくれたと思ったら、勝手に今の写真を待ち受けに設定されていた。こんなにファンサービスちゃんとしてるのは解釈違いである。茨くんはもっと私(ファン)に素っ気ない感じがいい。優しい茨くんはなんか違う。
「自分が名前さんに本気になったとしたら、解釈違い?ってやつなんですか?」
END