七種茨短編
七種茨
名前
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―「なんでそんなに不機嫌なんですか」
「茨くんがよその女とキスしてた」
「それってドラマの中の話でしょう?」
「お芝居だってわかってても嫌だったの!」
茨くんは繊細な女心を理解してくれないんだよな。キスシーンのある役だっただけで文句言われるのうぜぇと思ってんのかな。「そんなことを言われましても…」と、決して甘い口付けをしてくれるわけではなく。まぁ…茨くんの性格を考えると優しくないのも甘やかしてくれないのも当たり前だろうけれど。折角お付き合いしてるんだから恋人なんだって自覚させてほしいだけ。
「そういうヤキモチって可愛いっすけどねぇ。相手が茨じゃあ、そうなりそうっすよねぇ…」
ジュンくん優しすぎるだろ。どこぞの七種とはえらい違いだな。なんて、恋人の茨くんを心の中で貶しつつジュンくんの優しさに甘えていたら誰かに頭をポンとされて慰められた。…期待したけど、茨くんなわけがないんだよな。心配そうな眼差しで私を見下ろす凪砂閣下が撫で撫でしてくれた。思えば、茨くんにはこんな風に優しくされたことはないな。
「毒蛇と付き合っているからそんなことで悩むんだね!ぼくだったら何度でもキスしてあげるのにね!」
Edenが優しい…。そもそも茨くん以外のみんなは私に優しいんだよね。一番優しくない彼と付き合っているけど。こういう時に、どこかで聞いた「優しい人が好きです」って言葉を思い出すな。恋人にするなら、やっぱり優しくてワガママ訊いてくれる人がいいと思う。茨くんにとっても私にとっても、互いに理想の相手ではないのかも…なんてネガティブ思考に陥っていたらまたもや頭をポンとされた。少し乱暴なそれは、閣下の手ではなく。
「閣下もジュンも、殿下も優しいでしょうね。自分と違って…」
「茨くんは優しくないもんね」
「その優しくない男と付き合っているのは何故ですか」
「なんでだろうねぇ」なんて茶化した返答をしたから気に入らなかっただろう。まるで私が好きでもないのに茨くんと付き合ってるみたいに思われたんだと思う。この件をきっかけに、なんだか会いづらくなってすれ違いが増えた。私とは険悪ムードなくせに、あんずちゃんと仲良く喋っている様子を目撃して傷ついた。
「七種くんて結構名前ちゃんのこと好きだと思うよ」
「名前ちゃんの近況ばっかり訊かれたし。他の男と接触してないかとか心配してたし」と、あの日の彼らの会話の内容はあんずちゃんが教えてくれた。こんな可愛いあんずちゃんを前にして私の話題を出すなんて茨くんもどうかしてるな。なんてせせら笑いつつもすごく嬉しくて、そのまま足早に副所長室を目指した。
「副所長元気してるー?」
「何キャラですかそれ」
私のこれは空元気というやつだ。虚勢を張ってるだけ。茨くんが私のこと好きなんてあんずちゃんの気のせいかもしれないし、本当のところどうかわからない。会いたかったのも私のだけかもしれない。呆れたような目で見られるんだとばかり思っていたから、視線を緩めて笑う彼にどキッとした。
「会いたくて震えた」
「照れ隠しヘタですね。自分にどうして欲しいのか正直に言いなさい」
「言えないよ。キスしたいなんて…」
「正直なところは名前の美点でありますね」
みんなに優しい男よりも、優しさチラ見せ程度な男が好きなのかもしれない。「自分があなたを愛していること、ちっとも自覚してないんでしょう?」と甘い口付けをくれる茨くんは十分優しい。
「茨くんは私にはちゃんと優しいよね」
「どうでしょう。名前を抱く時は優しくできそうにありませんので。ところで、ジュンに優しくされてぐらついてましたよね…?」
「嫉妬してる茨くんも良きかな」
END