七種茨短編
巴日和
名前
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-「ちょっとジュンくん!名前ちゃんはぼくのだってわかってるよね?」
私はいつから日和くんのものになったんだ。と、困惑している私の前でジュンくんは苦笑を滲ませており、日和くんに至ってはニコニコ笑顔だ。私の推しはジュンくんなんだけどなぁ。なんて、絶対言えないけれど。さて…トリップしたらコズプロの事務員だった私。ひょんなことからEdenの巴日和くんに好かれてしまってさぁ大変。今朝もジュンくんと何気ない会話をしていたら駆け寄ってきた日和くんに肩を抱かれて冒頭の台詞である。
「おひいさんと名前さんは付き合ってるわけじゃないっすよね?」
「名前ちゃんとはデートもしているし、殆ど付き合ってるみたいなものだね!」
デート…?した覚えはないな。街中でばったり遭遇して、アンティークショップで買い物しまくってた彼の荷物持ちみたいな役目をしたことはある。確かにあの時、日和くん御用達の紅茶専門店でお茶したりしたけれど本当にそれだけだ。彼にとってはデートだったのか。実物の日和くんは黙っていたら美形なので、なんか照れる。そもそも何故、彼に気に入られたのか自体が謎だし。「しっろっい砂浜に駆けだした〜」とEveの曲を鼻歌で口ずさんでいたら「Eveの曲を歌ってるってことは君、ぼくのファンなんだね!」と断定されて現在に至る。
「あれってただ、おひいさんが迷惑かけてただけっすよねぇ?」
「迷惑じゃないよ。むしろデート認定していいのかね?」
おひいさんに口答えはタブーだとわかっている故に敢えて否定はしない。ジュンくんが共感してくれてるだけで嬉しいからいい。恋愛感情じゃなくて、ただ懐いてくれているだけかもしれないし。と、考えていたのは大きな間違いだったのだと…私は彼の腕の中でぼんやりと実感した。名も知らぬイケメン(無名のアイドル)に言い寄られていた刹那、日和くんに救出されて暗がりで抱きしめられた。「このイケメン…あんスタのキャラじゃないな。モブかな?」くらいのことしか思ってなかったんだからそんなに心配しなくていいのに。
「名前ちゃんは可愛いからモテるのはわかるけど、気に入らないね!」
「私べつにモテないよ」
「名前ちゃんはぼくのだって実感しないと安心できないね!」
ほんの少し触れるだけのもの。それでも、放心状態になるには十分だった。あのおひいさんにキスされたのだ。強引なものじゃなくてすごく優しい口付けだった。私だって大人だから、普通のキスじゃ動じない自信があったのに、翌日から日和くんの事が気になって仕方ない。昨日、有無も言わさずキスしてきた彼は何食わぬ顔であんずちゃんと喋っている。場所はニキくんが働いているカフェ・シナモン。あんずちゃんは可愛い…流石ヒロイン(トリップした成人済み女の感想)。どうせ日和くんもあんずちゃんにデレデレしてんでしょ?なんて、よく見てもいないのに勝手に決めつけてその場を立ち去った。
「名前さんは日和殿下とお付き合いされているとか…」
「日和くんに名前さんはぴったりだと思う」
外堀から埋められている。ジュンくんから訊いたのか、日和くん本人が言っていたのか知らないけれど美形二人に絡まれるとビビる。さて、仕事終わりに茨くんと凪砂くんに囲まれた。何て答えようか考えあぐねていた私は背中に受けた突然の衝撃に困惑しながらも、ぐっと堪えた。お腹に腕が回されてぎゅうっと抱きしめられて頬を柔らかな髪が掠める。そして、私が何か言う前に彼がきっぱりと宣言した。
「名前ちゃん。待ってたね!今夜は君の家に泊まるね!」
なんと用意周到にお泊まりセットを携えていた日和くん。Edenのメンバーに見せつけるみたいに私の手を引いてESビルを出た彼はご機嫌である。私はそのまま歩きながら、おひいさんの相手は大変だなぁ…なんて他人事みたいに考えてひんやりとした夜の空気を吸い込んだ。それなりに距離のある私の自宅までおひいさんを歩かせるのは気が引けてタクシーで家に帰ってきた。その間ずっとラブラブカップルみたいに腕に腕を絡められて密着されていた。
「日和くん…どういうつもりなの?」
「どうって、言わなくてもわかるよね」
壁を背に、日和くんの腕に閉じ込められて頬を両手で包み込まれジッと見つめられて胸が苦しくなった。日和くんは推しではなかったし、恋愛感情だって抱いてなかったのに、今すごくドキドキする。歳下の男の子に迫られて、歳上の余裕も保てないなんて情けないけれど。寝室に連れ込まれ腰を抱かれて胸に顔を埋めてこられて、スリスリと甘えられると子宮がきゅうっと疼いてしまう私はただの欲求不満なのだろうか。
「夕飯作るから離れて」
甘い雰囲気に飲まれそうになって、「ご飯作るから!」と逃げた。日和くんてこんなに肉食だったの?と早鐘を打つ胸には気付かないふりをして、私はキッチンに逃亡した。家にあったものだけでフルコース作った私を誰か褒めてほしい。ジュンくんほんとすごいな。と、湯船に浸かりながらジュンくんに思いを馳せていたのに、日和くんとのラブイベント(?)が発動してしまってさぁ大変!
「ボディークリームならぼくが塗ってあげるね!」
「や…っ。前は…塗らなくて、いいから…っ!」
「遠慮しなくてもいいね!名前ちゃんの肌は柔らかいね!」
「遠慮してるわけじゃない…っ」
END