七種茨短編
七種茨
名前
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-「仕事が欲しけりゃ、それ相応の態度ってものがあるだろう」
所謂枕営業ってやつである。私が股を開けばコズプロのアイドル…特にEdenに仕事の話がくるだろう。だけどこんな私にもちっぽけなプライドが存在して…。お偉いさんの手を振り払って逃げるように会議室を飛び出した。私の太ももを撫でた薄汚い手の感触が消えなくて泣きたくなる。いちプロデューサーでしかない私の犠牲なんてむしろ当たり前のことなのかもしれない。取引先の会社を後にして、私は直帰してよかった筈だが、何故か足がESビルへと向かっていて。キャンドルの火が揺れるような風景が視界に広がった。こんなことで泣くなんてばかみたい。惨めで、情けなくて…きっと彼に慰めてもらいたかったんだと思う。
「い、ばら……」
ESビルから出てくる影がふたつ。それは彼で間違いないのに、その姿を見た途端に逃げだしていた。コズプロの副所長…七種茨の隣にいた人物こそ、私よりもずっとちやほやされているプロデューサーのあんずちゃんだったのだ。そういうことか…私は都合のいい女だっただけ。所詮身体だけの関係…。もうこんな仕事やめてしまおうか。そうすれば人間関係もろとも断ち切ることができるし…なんて自暴自棄になっていた私の前に現れたのはEdenの漣ジュンその人だった。
「あーあ…ひでぇ顔。茨と何かあったんすか?」
「え、は…?茨?なんで?」
ジュンくんは茨と私の関係なんて知らない筈だ。というか、プロデューサーがアイドルと関係を持っているなんて知られたらよくない。だからこそ、「毒蛇となんかなんの関わりもありませんが」とつっけんどんに言い放っていた。ジュンくんが引き止める声も聞かずに「私もう帰らなきゃ」と走り出した。気にかけてくれたのに、ジュンくんには悪いことをしたと思う。夜闇が広がる真っ暗な部屋で、灯りも点けずにベッドにダイブした。
「これから、どうすればいいんだろう…」
腕をぐっと伸ばしてぽつりと呟いた。勿論、誰も答えてくれやしない。ぷつりと糸が切れたように涙腺が崩壊して涙が頬を伝っていた。何もかも忘れてしまいたい。私の嗚咽だけが響く静寂な部屋に不相応なインターホンの音が鳴らされた。こんな時に誰だろう。なんて、確認することも放棄して枕に突っ伏していたら部屋のドアの開く音と、暫くして一つの足音が聞こえた。合い鍵を持っている人物なんてひとりしかいない。今は誰にも会いたくなかったし寝たふりをしていたら頭をガッと掴まれた。
「居留守なんていい度胸してますね」
「不法侵入…」
「なにが不法侵入でありますか」
Edenの毒蛇こと七種茨。私の部屋の合い鍵を渡している唯一の人間だ。つれない態度に呆れているかと思いきや私の顔を見てぎょっとした声をあげていた。「あなたを泣かせてしまったのは俺なんでしょう?」と、あの毒蛇が珍しく焦っている。そんな彼に「分かってるなら早く帰ってくれませんか。顔も見たくないので」と冷たく突き放す言葉を告げて布団で全身を覆い隠した。猫みたいに丸くなって、無言で茨が帰ってくれるのを待ったが、そうはいかなかった。布団を剥ぎ取られて彼の鋭い視線とあいまみえた。
「ジュンから、名前を泣かすな。と叱られましてね。仕事で何かあったのでしょう?」
仕事のことだけが原因じゃない。私は茨の恋人じゃない。そう実感させられて嫌だったというのも要因で。しかし、絶対そんなこと言いたくないし、このまま彼と縁を切ってしまいたい衝動に駆られて自暴自棄な言葉を吐いていた。「私はプロデューサー失格なんだ。自分可愛さに仕事も取ってこられないようなだめプロデューサーで…」俯いて涙を拭っていたら、彼の強い力でベッドに押し倒された。どうして茨がこんな傷付いたような表情をするんだろう。なんて、必死に身を捩らせたけれど今度は抱きしめられて動きを封じられた。
「枕営業を迫られたのでしょう?どうして俺に報告してくれなかったんですか」
「何もされていませんか?」と問いかける声はどこか悔しそうで、「何もされてない。その前に逃げたから」と何の感情も篭っていない声で呟いた。私に触れないでほしい。その腕で他の女を抱いたんでしょう?と、不確かな想像をして、「離してよ。茨なんか嫌い」と声を絞り出した。言葉とは裏腹に、このまま離さないで。どこにも行かないで。なんて、願ってしまう自分が嫌で嫌でたまらない。「それはよかった。名前にもしものことがあったらと思うと胸が張り裂けそうで…」なんて相変わらず胡散臭い物言いをする。
「ねぇ、離してってば…っ」
「嫌です。今夜は離したくない」
「嘘ばっかり…。あんずちゃんと一緒にいたくせに」
「あれは仕事の相談にのっただけでありますよ。まさか、それで俺のことを嫌いとか仰ってるんですか」
本当にそれだけ?なんて信じられないからめちゃくちゃ抵抗しているんだけど、それ以上に茨の抱きしめる力が強い。「これだけ抵抗してるんだから普通は離すよね」と嫌味を言ったつもりなんだけど。「名前が可愛くないことばかり仰るものだからこちらも意地になってしまいましてね」なんて、口付けされそうになったから、思わず人差し指で彼の唇を押し返して阻止した。本当に可愛くない態度。こんな私の事なんて嫌いになればいい。いっそ関係を終わらせてくれたらいい。と、不貞腐れた子供みたいな思考で支配される。
「俺を本気にさせた名前が悪いんですよ」
「ん…っ。や、ぁん…っ」
「嫌いなんでしょう?そんな甘い声を出しているくせに…」
後ろから胸を掴まれ、敏感なそこを服の上から引っかかれて、感じたくないのに身体は反応してしまうわけで。耳を甘噛みされて背筋が痺れて、唇を噛み締めて我慢した。胸が弱いのを知っているからってそこばかり攻めるのはずるい。この涙は生理的なそれなのか、拒めない悔しさからくるものなのかどちらだろうか。「少し触っただけでこんなに濡らして…俺に触れて欲しいんでしょう?」とスカートの中に侵入した彼の手がショーツ越しに秘部に触れて。「違う」と苦し紛れなそれも聞き入れてもらえず、長い指で蜜壷を掻き回される。
「やぁ…っ。抜いて…っ」
「淫乱な名前には指だけで充分でしょう…っ」
「ふ、ァ…っ。それ…っ、やァ、ンン…っ」
飼い馴らされた身体は、たとえ指だけの愛撫だとしても感じてしまうもので。口では嫌がっているのに、イかされてしまって、それに気付いた茨の嫌がらせは更にヒートアップした。分かるだろうと腰に押し当てられているものは彼の屹立したそれで。茨はこんな状況でも私に欲情してくれるんだ。なんて嬉しくなってしまう自分に呆れる。彼は私のことを好きなわけでもなんでもないというのに…。
「名前にしか、こんな風にはならないのでありますよ」
「そんなの信じない。早く離れて」
今まで粘っていたのはなんだったんだろう。と思える程にあっさり手放されて、背を向けた茨は部屋を出て行く。戸締りはちゃんとしないと。なんて口実をつけて玄関まで見送りに行く。早く帰れなんて思っているのに…。振り向いた茨が「やっぱり今夜は泊まります」と私に告げた。どうして私はシャツの袖を引っ張って引き止めるなんて真似をしているんだろう。行動がチグハグすぎて泣きたくなる。
「名前ってキスすると泣き止みますよね」
「そういうとこ、ほんと嫌い」
「残念。俺は嫌いじゃありませんので」
END