七種茨短編
漣ジュン
名前
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―一般的には、青春真っ只中である筈の高校二年生の現在。彼氏もおらず、非リア充という分類に属してしまう自分を、何だか恥ずかしいと感じていた名前は近頃恋愛に貪欲になりすぎていた。玲明学園二年S組の教室にて、名前が喋っている相手は隣の席のイケメンだった。「行きたがってたテーマパークのチケット、丁度二枚あるんだけど…」とかなり用意周到に彼女をデートに誘っている。このままデートが実現するのかと、満更でもない様子の名前を見て苛立っている人物が、我慢出来ずに席を立って彼らに歩み寄る。
「なに、人のものに手出ししてんすかねぇ?」
「べつに手を出してはいないけど…」と怯んだように受け答える彼は、ジュンに鋭い視線で睨まれていたのだ。持っていたチケットを指先で抜き取り、「他の女子でも誘ってみれば?」とジュンとしては友好的にその場を収めたつもりだったが、彼女はだいぶ困惑していた。手を握られたまま教室から連れ出され、訳も分からずに辿り着いた先はEveのレッスンルームで。部屋に入ると開口一番に名前が問うた。「私はいつからジュンくんのものになったの?」と。「名前が騙されないように止めたつもりだったんすけど。不満なんすか?」とムッとした表情の彼女と視線を合わせてジュンは苦笑した。「私だって、同年代の男子とお出掛けしてみたかったんだけど」と話す彼女は、なんで邪魔したの?と言いたげな口調で。ジュンの気持ちは全く伝わっていなかった。ソファーに密着して座った彼は頬に手を滑らせ、その耳元で囁く。
「アイツ、下心見え見えだったでしょう?俺が止めなかったら、ホテルに連れ込まれてたりして…」
「考えすぎじゃないの?それに私、ジュンくんの彼女でも何でもないのに」
名前が他の男とデートするなんて、黙って見過ごせなかったのだ。それもその筈。ジュンの片想いの相手こそ、隣にいる名前で…。だが、ジュンの心境など知る由もなく、彼女は不満そうに唇を尖らせていた。頭にぽんと手を置いて、「機嫌直してくださいよ」と彼は笑う。まるで日和のご機嫌取りと変わらないな、と。間近に迫った彼の端正な顔、頭に触れる男らしい掌。プロデューサーとして、アイドル漣ジュンを意識しすぎてはいけないと頭では分かっていたが、実際には難しいもので。寄り添う彼を意識せずにはいられなかった。危機を察して助けてくれたジュンのことを責めたくないが、デートのチャンスを妨害されて少々残念に感じていた。
二人きりの部屋にはジュンの声が響く。意を決したような、しかし少し不安そうな声音で彼は問いかける。「お詫びに、俺と出掛けません?」と。「それってデート?」と照れ臭そうに笑う彼女につられたように彼も照れ笑いを滲ませていた。「相手が俺じゃ不満っすか?」と苦笑するジュンに、「そんなわけない」と名前が首を振る。
「名前とデートするなんて、バレたら厄介なんで絶対秘密っすよ」
日和にはくれぐれも内密に。そう話していた彼らは当日、日和よりも厄介な人物に遭遇してしまった。―「ほっちゃんのお嫁さんになる筈の名前ちゃんが、ジュンくんとデートしてるなんて何事かな?当てつけかな?」
END