七種茨短編
漣ジュン
名前
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-「ジュンくん今日も来てくれるかなぁ…?」
豪貴なバスルームで彼女の独り言が反響した。桶に入れられ、泡だらけになっている犬は彼女の問いかけに答えるかの如く「くぅん」と鳴く。この犬こそ、名前の実兄、巴日和が拾ってきた犬…名はブラッディメアリという。散歩に連れ出したはいいが、はしゃぐメアリは泥だらけになってしまい、こうしてお風呂に入れていたのである。独り言でお察しの通り、彼女は漣ジュンに片想いしている。だが、この事が日和にバレたらと考えると恐ろしい。「兄様がメアリのお世話をジュンくん任せにしてたから、私が引き取ったわけだけどね」と呟きながらゆっくりとシャワーをかけてメアリの体を洗い流していく。流しきって水を止める蛇口を閉めていた彼女の背後から一瞬のうちに姿を消したメアリはブルブルと体を震わせ水飛沫を飛ばした後、扉の外に逃げていってしまい、彼女は慌てて追いかけるのだった。
―「あれ?メアリってば、ずぶ濡れだね」と逃亡したメアリを受け止めたのは帰宅した日和だ。日和の頬をペロペロと舐め、甘える仕草を見せているメアリに反し、こちらはどうしようもない状況に陥っていた。メアリを追っていた彼女は勢いがつきすぎており、急に止まれなかった為ジュンに受け止められた。それだけならまだマシだ。問題はその格好にある。メアリを洗う為に薄着になっていた彼女はキャミソールにショートパンツという、きわどい出で立ちだった。「走ったら危ないっすよ」と彼女を抱いた体勢のまま視線を合わすジュンだが、彼の逞しい胸板を感じている名前はそれどころではなかった。咄嗟に抱きついてしまい、手を離さなければいけないと分かっているのに離れ難い。
「ちょっとジュンくん!ぼくの名前に気安く触れるなんて許さないね!」
日和の位置からは彼らが抱き合っているように見え、それに憤慨した日和が二人を引き離したが彼女はジュンに抱きとめられた余韻に浸って恍惚とした表情を浮かべている。「飛び込んできた名前さんを受け止めただけっすよ」と弁明するも日和は納得していないように眉を顰めている。ジュンに抱きついていたのが気に食わないのか「ぼくの胸に飛び込んでくるといいね!」とメアリをジュンに渡し、名前に視線を向けながら腕を広げる日和だが、「兄様に抱きとめられても嬉しくないもん」とフラれてしまった。「可愛い名前に好かれるなんてジュンくんのくせに生意気だね!」と一人で憤慨している日和を残し、濡れたままのメアリを乾かしてあげようとジュンの手を引いてその場を去っていく彼女は嬉々とした笑顔で彼と一緒に自室に入っていく。
「妹から嫌われたとか、後々おひいさんが面倒くさそうなのでどうにかしてくださいよぉ…?」
「面倒な兄様に付き合ってくれてありがとう。ジュンくん」
「あの人、名前さんからも面倒くさいと思われてるんすね」
「さっきの"僕の名前"発言はないと思う」
「そういえば、早く服着てくださいよぉ?名前さん」と目のやり場に困っていた彼が、自らの着ていたジャケットを脱いで名前に羽織らせた。ぶかぶかのジャケットを着た彼女はお礼を伝えるが、「なんて無防備なんだろう」とジュンが己の理性と葛藤していたとは露ほども気付かないのだった。
END