七種茨短編
Edenと後輩
名前
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
―「日和先輩の我儘なら、何でも聞いてあげたくなりますけどねぇ」
「ジュンくん!少しは名前ちゃんを見習うべきだね!」
ジュンにとっては異質な存在。それが彼女…玲明学園一年生の名前だった。日和の大ファンであり、それを本人の前でも隠そうともしない辺りはある意味凄いと感じていた。だが、彼女がいると日和は付け上がりやすい。とばっちりは全てこちらにくるのだからたまったもんじゃない。以前、ふたりで会話したことがある。「おひいさんのどこがいいんすかぁ?」とジュンが問えば「一目惚れです!」と良い笑顔で答えてくれたのを思い出す。理想化しているだけなのでは?普段の日和の振る舞いを知れば幻滅して夢も醒めるのでは?と思っていたのだが、予想が大きく外れた。面倒を見たくなる男性が好きなタイプらしく、日和の我儘を快く聞いてしまう名前のことをジュンはむしろ心配になった。現に今だって、「紅茶が飲みたいね!」と日和の我儘に応え、慣れた手つきで紅茶を煎れてくれた。アールグレイの香りが鼻腔を掠める中で、日和は満足そうに微笑んでいる。それに加え、切り分けたキッシュを日和に食べさせてくれているのだ。
「名前ちゃんはいい子だね!ぼくは名前ちゃんみたいな子が好きだね!」
「漣先輩!今の聞いてましたよね?これって、プロポーズ…」
「プロポーズじゃないと思うんで、一旦落ち着きましょうね」
よしよし。と日和に頭を撫でられている名前はまるで喉を鳴らしている猫のようで。しかし、足元に近寄ってきたのは名前のライバルである。名はブラッディ·メアリ。ジュンと日和の愛犬である。メアリを抱き上げて撫でくりまわしている日和とは対照的に、彼女の視線には嫉妬心が滲んでいた。「私だって、日和先輩に撫でくりまわされたいし、チューされたいし…」と本音が漏れ聞こえ、ジュンは慌てて彼女の口を塞いだ。犬に嫉妬しておかしな事になっている。「相手は犬っすよ。妬きすぎでしょう?」と宥められ、少しは落ち着きを取り戻したようだ。しかし、先程の吃驚発言を聴き逃していなかった日和は「可愛い名前ちゃんに好かれるなんていい日和!」と大満足の様子でテンションが高い。
「日和先輩。美形すぎてしんどい」
「チューされたい」と言っていた彼女に、キス出来そうな程に日和が顔を寄せると、悶えている表情で名前がそう呟いた。立ち上がった日和に腰を抱かれ、社交ダンスでも始まりそうなくらい距離が近い。振る舞いはあれだが、顔は文句無しに整っている為、日和のファンにとっては卒倒してしまいそうなシチュエーションである。「おひいさん!名前もう限界きてると思うんで、離してやって下さいねぇ」と、鶴の一声もとい、ジュンの窘めはむしろありがたいものだった。ふらふらと椅子に座った彼女は、火照る頬に手を当てて物憂げな溜め息をついていた。
「幸せすぎて死ぬかと思った…」
「名前ちゃんに死なれたら困るね!そういう冗談は嫌いだね!」
「いや。全部おひいさんのせいなんすけどねぇ…」
END
4/4ページ