ネイビーブルー
名前
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―「ジュンくんの悔しそうな顔が目に浮かぶね!楽しみだね!」
本日、名前の隣には巴日和がいる。Eveのライブに行ったあの日…知らない間に連絡先を交換されていた彼女は、日和からの誘いを無下にする事も躊躇われて断りきれなかったのである。ジュンのユニットパートナーなのだから、今日はジュンも一緒なのだろうと思っていたが、迎えに来てくれた車にジュンの姿はなく。家の前に停められた高級車に乗り込むと、あの日と同じように快活な笑顔で出迎えてくれる日和がいて。「庶民らしい遊びがしてみたいね!」と、現在ショッピングモールのゲームセンターにいる。しかも、プリクラ機の中だ。「400円?ぼくは小銭を持っていないからお任せするね!」と、物珍しそうにキョロキョロする日和の横で名前が機械に小銭を投入した。撮影が開始され、機械が「もっとくっついて」やら「次はアップで」などと指定してくる為、日和によるスキンシップはかなり激しかった。肩を抱かれ、その端正な顔が迫ると、相手がアイドルということもあり、彼女は無性にドキドキとさせられた。
「巴さん。距離…近すぎじゃないですか?」
「そう?言われた通りポーズをとってるだけだね!」
「名前ちゃんは恥ずかしがりだね!」とぽんぽんと頭を撫でられ、最後の撮影が終わって落書きタイムに突入した。適当に落書きをしている彼女の横で、スタンプを押したりなんだかんだ楽しんでいる日和の横顔をちらりと一瞥した彼女は笑った。黙っていれば素敵な人なのにな。と、心の中で失礼な事を思いつつ、出来上がったプリクラを取り出し口から取り出して日和に手渡した。写真に写るふたりの姿は、第三者から見ればカップルのように見える程だった。「うんうん!綺麗に撮れてるね!」とご満悦の彼は予想外なことに名前のことも褒めてくれた。「名前ちゃんも可愛く撮れてるね!まぁ、もとから可愛いから当たり前だね!」と。ゲームセンターを後にして、彼らはモールの中でも高めなカフェにて紅茶を飲んでいた。鼻腔に広がるのはアッサムの香りで、優雅なティータイムだ。
「巴さんは御曹司なのに、私みたいな庶民とお出かけなんかして大丈夫なんですか?」
「ぼくは君を気に入ったからね!庶民とかそういうのは関係ないね!」
「いい日和!」とご機嫌な彼の様子に一安心だ。しかし先程、ジュンから連絡が入ってきた。「名前、もしかしておひいさんと一緒っすか?場所は?」と訊かれてモールの場所を答えておいたのだ。日和は悪い人ではないが、1日一緒にいると疲れてきた。ジュンが来てくれるなら、この貴族のお遊びから解放されるに違いない。と、名前はジュンの登場を心待ちにしていた。彼女の気持ちとは対照的に、日和は随分と彼女を気に入ってしまったらしく、その眼差しは愛しげなものを見るように細められていた。「やっぱり、君はジュンくんには勿体ないね!」と店を出た後からも日和に手を繋がれて終始困惑しっぱなしの名前の前に、漸く救いの手もといジュンが現れた。
―普段ずっと避けているくせに、こんな時だけジュンに会えて嬉しくなる自分はなんて身勝手な奴なんだ。と、名前は自分自身を心の中で嘲笑していた。名前と手を繋いで楽しそうな日和と目が合うと、ジュンは呆れたような諦めたような溜め息を吐き出した。「GODDAMN!」と思わず呟いて、彼らに声をかける。「おひいさん!アンタ、俺ならともかく名前に迷惑かけて…」とイライラした様子のジュンに日和が反論した。「迷惑なんてかけてないね!それに、名前ちゃんも楽しんでくれてたね!」と、それに加え「ジュンくんが心配する程じゃないよ。楽しんでたのは本当だしね」と笑顔の名前にはむしろダメージを与えられた。
「ジュンくん。迎えに来てとは頼んでないね!」
「茨から、おひいさんが女の子と歩いてたって連絡があったんすよ。そしたら相手が名前だって分かったんで、急いで駆けつけたわけっす」
「ジュンくん。わざわざありがとう」
「特別に、いいものを見せてあげようね!」と意気揚々と日和が取り出したのは、先程ふたりで撮ったあのプリクラだった。自分には内緒で、名前と二人きりで会っていたのも腹立たしいのに、あまりにも距離が近いそれを目の当たりにしてジュンは言葉を失った。「ジュンくん、さては焼きもちを妬いてるね!」と日和がからかうも、何も反論してこないジュンは相当ショックを受けているようだった。「ほら、さっさと帰りますよ〜」と、日和から離れた隙に彼女の手を握って、ジュンは歩き出す。その横では日和が名前にこっそりと耳打ちしていた。「デート楽しかったね!また連絡するね!」と。今日のあれはデートだったのか。と、今日の一連の流れがデートだと自覚していなかった名前にとって、その言葉は衝撃的な事実だった。思わずジュンの手を強く握って彼を見上げる。迎えの車に乗り込んだ日和と別れ、ジュンと名前の二人きりになった。
「この前知り合ったからって、のこのこ付いていかないでくださいねぇ。おひいさんの相手大変だったでしょう?」
「大変じゃなかったといえば嘘になるけどね。普段のジュンくんの話も聞けたし、私はそれなりに楽しかったよ」
「だけど、ジュンくんが来てくれて安心した」と笑顔の彼女と視線が絡む。「おひいさんのこと、好きになったりしてないっすよね?」と、まさかと思いつつも一番心配している事柄に触れる。すると「アイドル相手に惚れたりしてないよ。ジュンくん心配しすぎ」とくすくすと彼女が笑うが、それではアイドルである自分にも惚れたりしないと否定されているようで、素直に喜べなかった。夕焼けが照らす道を並んで歩きながら、半分自暴自棄になり気味のジュンが自分の本心を明かしていく。「おひいさんばっかり、名前とデートして狡いんじゃないっすか?次は俺とデートしてくださいよ」と。「付き合ってないのに、男女が一緒にお出かけする事はデートに含まれるの?」と、どうも名前の中でのデートの定義は付き合っている男女がするもの。という認識らしい。「男女が二人きりで出かけることを一般的にはデートと呼ぶんすよ。付き合ってるとか関係なしに」と彼の説明を聞いて、彼女は自分が勘違いしていたのだと自覚したみたいだ。
「ジュンくんとデートしたい女の子ならいっぱいいると思うけど。相手が私でいいの?」
「嫌なんすか?」
「嫌なわけない。ジュンくん趣味悪いなと思うけど」
「趣味悪くて結構なんで」
……To be continued