ネイビーブルー
名前
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―「無理。しんどい辛い…」
今にも死んでしまいそうな程に弱っている名前の呟きが冒頭のものだ。只今、自宅の廊下で倒れたまま動けずにいる。仰向けの体勢で額に掌を当ててみれば、尋常ではない熱が伝わってくる。生憎、出張中の父の付き添いで母も外出しており、家には誰もいない。スクールバッグの中でスマホが振動している音が聞こえる。誰かに電話して助けを呼べばどうにかなるだろうか。朦朧とする頭でそんな事を考えるが、中々実行に移せず起き上がれずにいる。そんな時、名前はインターホンの音と玄関の鍵が開けられた音に気付き、びくりと身を震わせた。母が帰ってきたのかもと縋るように視線を向ければ、目が合ったのは想定外の人物で。思わず声が出なくなった。名前の母から自宅に連絡を受け、様子を見に訪れたジュンは急いで家にあがり、彼女に駆け寄った。握った手がすごく熱い。嫌な予感がすると思っていたら、それが的中してしまった。
「ジュンくん。なんで来てくれたの…?」
「名前が電話に出ないって、名前のお母さんから連絡があって…様子を見に来たんすよ」
ジュンは「大人しく運ばれて下さいよぉ」と抱きかかえた彼女に声をかけ、お姫様抱っこで部屋まで歩いていく。重たいからいい。と、いつもの彼女ならジュンを拒んでいただろうが、今はそんな気力が微塵も残っていなかった。学校では徹底して避け続けている相手。女子同士のいざこざに巻き込まれたくないが為にしていた行動で、ジュンだって避けられている理由も分かっていない筈なのに…急いで駆け付けてくれたであろう彼が酷く愛おしい。ベッドに仰向けに横たわるが、学校に行こうとしていたので制服姿のままだ。「ジュンくん、学校遅刻ちゃうよ。私の事はほっといていいから…」と弱々しい彼女の言葉を聞いて、彼は呆れたように彼女の頭を撫でる。「病人をほっとけるわけないじゃないっすか」と看病なら任せろと言わんばかりの台詞に名前は口を噤んだ。ジュンと二人きりなのは気まずいが、今はその優しさに縋りたかった。
「制服着替えたい。手伝って」
「いくら病人の頼みでもねぇ…。着替えは手伝えないっすよ」
熱があるが故に思考力が低下しているようだ。一般的な男子なら、名前がした頼みを快く受け入れただろうが、そこはジュンの誠実さが垣間見えた。「俺は必要な物買ってきますんで、着替えて寝ててくださいねぇ」と告げて彼は部屋を出ていった。一人残された彼女は、パジャマに着替えて眠りについた。ジュンと抱き合って、キスをして…と、随分と幸せな時間を過ごしたような気がしたがそれもその筈。自分の目の前にいるジュンをまじまじと見つめ、あれはやはり夢だったのだと名前は落胆した。あんな内容の夢を見てしまっただけに、何だか後ろめたい気分になる。心配そうな眼差しのジュンと視線が絡み、距離が一気に縮まった故に先程の夢の中で口付けを交わした事を思い出して彼女は一人身悶えていた。そんな名前の心境も知らず、ジュンは額に冷却シートを貼ってくれただけだった。
「ジュンくんに迷惑かけてごめんね…」
「迷惑なんてかけられてないっすよ。それにしても、学校以外の場所なら普通に会話してくれるんすねぇ」
「ジュンくんモテるから…女子同士のいざこざに巻き込まれたくないんだもん」
ジュンは自分が避けられている理由を初めて訊いたが、その理由は理解し難いものだった。そんな事情で避けられているなんて馬鹿らしいとすら感じた。しかし、名前からすれば重要な事なのだろうと思い、何も言えなかった。絡まされた熱を帯びた指先にドキドキとさせられたジュンは逃げるように「お粥持ってきますね」と部屋を後にした。ジュンの作ったお粥を美味しいと言って微笑む彼女だが、その後発せられた一言にジュンは思わず顔を顰めた。「ジュンくん、将来いいお嫁さんになれるね」と。
「俺は嫁にはいきませんよぉ。名前が嫁に来れば…っ。いや…なんでもないっす。気にしなくていいんで…」
……To be continued