隣人シリーズ
名前
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―「やぁやぁ♪おはようございます!名前さんは今日もお美しいですね!」
私は正直、この隣人が苦手である。会う度に色々褒めてくれるのだが、素直に喜べない。全く心が篭ってないからだ。というか、イケメンを相手にすると落ち着かない。しかし、七種茨の職業をよく知らなかった私はある日、仕事場で彼と鉢合わせてしまった。なるほど、七種さんはアイドルだったのか。と納得。職業メイクアップアーティストの私が本日担当するのは、人気アイドルEdenで。テレビをあまり見ないので、仕事相手にミーハーにならなくて済むのが利点だったわけだが…今回はそうはいかなかった。勿論、ファンだからというわけではない。「名前さんのご職業はメイクさんだったのでありますか。自分、隣人なのに無知でお恥ずかしいです」とお得意のマシンガントークが繰り広げられる。Edenの他のメンバーは、え?この人達面識あるの?みたいな反応をしていた。知らなかったも何も、互いの職業の事を詮索したりしなかったので当たり前だろう。Edenは素が整っているのでメイクに時間ががかからなくて済むなと思っていた…一人を除いては。
「七種さん。目の下の隈!徹夜でもしたんですか?」
「三徹目です」
「もう!どおりで血色悪いと思いましたよ」
お隣のイケメンさんに説教するのはどうかと思うが、職業柄しょうがないところがある。肌のコンディションが良いと、こちらとしても楽なのだ。行程が少なくて済むし、早めに髪型のセットに移れるし。そんな訳で、お肌のコンディション良好だった残りのメンバーは先に済ませてもらった。特に、乱凪砂さんは彫刻みたいに整ったお顔だった為、Eden最短のメイク時間だった。それに比べ、七種茨は二倍の時間を費やす必要があった。Eveのふたり…巴さんの方はコットンパックの間に紅茶を出したら随分とお気に召してくれたようで、「名前ちゃんは、Eden専属のヘアメイクになるといいね!」と、そんな権限も無い筈なのに勝手に任命されてしまった。絡みやすいのは漣さんだけだな。なんて、失礼なことを考えつつ、七種さんのマッサージをする。だが、必殺リンパ流しをしている途中、彼からストップの声がかけられた。
「名前さん!ちょっと、ストップして頂いても?」
「すみません。痛かったですか?」
「我慢してください」と苦笑するも、どうやら理由があるようで。「後頭部に、その…当たってます」と、視線が泳ぎまくりの彼の照れ顔なんて珍しいものを拝見させてもらった。当たってる…と言われると、まぁ、私のそんなに豊かじゃない胸のことなんだろうな。普段、女性のメイクを担当する事が多いから胸が当たっても気にされなかったとはいえ、今回の相手は男性。完全に私の失念だった。顔のマッサージの時は、胸に後頭部を押し付ける形になるから胸元にタオルを挟むのだが、リンパ流しに集中しすぎてタオルが落ちてしまったらしい。「自分以外にも、そんなに押し当てていたのですか?」という非難の声は無視して彼の隈消しに勤しむ。コンシーラーを消費しまくったし、だいぶ時間も押してしまった。
「七種さん一番時間かかる。隈なくす為に、きちんと睡眠取ってくださいね」
「名前さんのお手を煩わせて申し訳ございません。なんとお詫び申し訳あげたらいいか…」
「少し肌荒れしてたし、栄養のあるもの食べたほうが…」
「なーんて、小言の多い母親みたいなこと言ってすみません」というような会話をしていた翌日、栄養満点の食事を作り、彼を自宅に招いた私はお節介な隣人だろうか?尚、今夜も褒め殺しは止まらず。「名前さんの手料理が食べられるなんて、自分は幸せものにであります!」と無邪気な笑顔を浮かべる彼に、母性本能を擽られた。アイドルなのに、相変わらず隈は濃いままで、これからもご飯作ってお世話したくなってしまう。折角綺麗な顔してるのに、勿体無いなぁ…という職業病みたいなものだろう。
「今夜も徹夜するつもりでしょう?」
「いえ。今夜は、名前さんに言われたとおりに…」
「図星か。七種さんの美を取り戻す為に、お泊まり会決行します!」
END
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