隣人シリーズ
名前
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―「あら、名前ちゃん。その服よく似合ってるわァ〜」
青のタータンチェックのペンシルスカートに無地のニット服を合わせた服装で家を出て、エレベーターを待っていればお隣に住む鳴上嵐くんと出会った。私のコーディネートに目を止めてくれた彼の言葉に大歓喜だ。現役アイドルでありモデルでもある彼に褒めてもらえるなんて自分のファッションセンスも捨てたもんじゃないんじゃないかと気分が高揚した。いや、違う。既に彼と出会った時から気分は高揚していた。朝から超絶美人さんである鳴上くんに会わせてくれて神様ありがとう。くらいのことは思っている。同じ人間とは信じ難い程に美しい。それに性格も良くて、高身長で最高だ。「鳴上くんは今日も美人だね」「やだわぁ。名前ちゃんみたいな可愛い子に褒められたら照れるじゃない」と、好きな人から褒められるのは大変喜ばしいことである。しかし、鳴上くんの恋愛対象は男性なのか女性なのか、はたまた両方なのだろうか。と、素朴な疑問がここ最近浮かんでしまい、ずっともやもやとしているのだ。
「鳴上くんだなんて水臭いじゃないの。お姉ちゃん呼びでいいのに」
「じゃあ、嵐くんで」
ご要望に応えられなくて申し訳ないが、お姉ちゃん呼びはご遠慮させて頂くことにした。彼はオネェだが、成人男性(想い人)のことをお姉ちゃん呼びは無理である。無謀な片想いだと分かっている。隣人だからといって懇意にしすぎるのも良くないだろうと、目の保養程度に思っておいたほうがいい。それなのに、もはや後戻り出来ない関係になってしまった。背後に警戒しながらキョロキョロと歩いている私に話かけた声の主は嵐くんその人で。私の挙動を訝しがった彼に問いかけられた。「どうかしたの?」と。ここ最近誰かに後をつけられているような気がすること、今もこちらに視線が向けられている感覚がして気味が悪いということを、そっと彼の耳元で伝えると、唐突に顎を掬われて唇を重ねられた。
「あ、らしくん…?」
「ごめんなさいねぇ。名前ちゃんに悪い虫が付かないようにするには、この方法しか思いつかなくって…」
背後からは走り去っていくような足音が聞こえ、僅かに震えている私の手を彼が握ってくれた。緊張の糸が切れたように嵐くんに抱きついてしまったが、拒む素振りもなく抱きしめながら頭を撫でてくれる。「今夜はこのままうちにいらっしゃい」と、「心配だから」と手を引かれるまま彼の家に上げてもらった。こんなに優しくされたら余計に好きが募る。私なんかに好きになられても迷惑だろうに…。「嵐くんは、私なんかに優しすぎるよ…」と涙を拭いながら告げると彼はふわりと微笑んで荒唐無稽な言葉を口にした。「好きな女の子に優しくするのはおかしいかしら?名前ちゃんだけは特別よ」と。この日以来、ストーカー被害に遭うことはぱったりとなくなり、嵐くんとの真剣交際が始まったのです。
END