隣人シリーズ
名前
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―「こんばんは!あなたの日々樹渉です」
突撃隣の夕ご飯ばりの登場をするのは、隣の部屋に住むfineの日々樹渉くんである。定時で帰れた日の夕食時に必ずうちにくる彼は、私を驚かせることに喜びを見出しているようだ。こんな時間に迷惑だとかそういうことを考えてくれるような相手ではない。今日も今日とて、部屋の扉を開けると満面の笑みで冒頭の台詞と共に彼が待ち構えていた。「食事は誰かと一緒に食べたほうが美味しいに決まってますよ」やら「私の胃袋を掴んで離さないのは、名前さんのほうでしょう」と、なんだかんだ言いくるめられて夕食を共にする現在に至っている。人気アイドルと仲良くなった上に、こうして食卓を囲んでいるなど、世の女性からすれば羨ましいことこの上ないのだろうが、生憎私は日々樹くんとそういう関係になる気もなければ、フラ○デーなんてされたくないので勘弁してほしいと思っている。タイマーセットしておいた圧力鍋で出来上がった筑前煮を食べていると、ふと彼が口を開く。「何だか浮かない顔ですねぇ。私がとびきりの手品を披露して差し上げましょう!」とワクワクとした表情で彼が席を立ったが、手品なんてされた日には部屋中薔薇の花弁が散乱して掃除が面倒なことになるのが目に見えている為、慌てて彼を窘める。不満そうな反応をされたが仕方のないことだ。我慢してほしい。「日々樹くんは…」そこまで言った途端に彼の声が被さった。「その呼び方、気に入りませんね」と。「名前さんと私の仲なのですから、名前で呼んでくれてもいいのでは?」と強制的な名前呼びが課せられた。それから言い直す。「渉くんは私はよりも料理上手なのに、どうして私の手料理食べたがるの?」と。残業で遅くなった日には、逆に彼が自宅に招いて手料理を振舞ってくれるのである。疲れて帰れば、彼の手料理が待っているので、それが今では唯一の楽しみだったりする。私の問いかけに、彼は呆れたように息をついた。「そんなことも分からないとは、意外と鈍感ですねぇ」と笑われてしまった。この美形と自宅で二人きりで食事をしているのは、正直言って心臓に悪いのだが、渉くんがあまりにもグイグイくるので拒めないというのが本当のところだ。
「名前さんは料理上手で、何処に出しても恥ずかしくない方ですが…嫁に来る準備は出来ていますか?私はいつでもお待ちしておりますよ!」
「なんで日々樹家に嫁入りする設定なの?からかってるでしょ」
「アメージング!今日も宇宙に愛の囁きを!」と活き活きしている彼は、私の心を乱している自覚なんてないに決まっている。そして翌日、私は職場で驚かされることになるのだった。休憩がてら珈琲を買いに行こうとオフィスを出ると、見覚えのある鳩が飛んできた。しかも手紙も銜えている。内容はこうだ。『職場まで迎えに行きますから、定時で終わってくださいね』と。どうやら、私の職場付近で通り魔事件が起こったらしく、心配した彼が迎えに来てくれるらしい。むしろ、そんな危ない場所にアイドルが来てはいけないのでは?と思うが。そんなわたしの心配をよそに、彼は現れた。警備員さんが警戒してめちゃくちゃ見てくるし、少しは自重してもらいたい。明日、部署で噂になっていたらどうしようと…私は冷や汗をかいた。
「あなたの日々樹渉がお迎えに参りましたよ〜!」
「ありがとう。でもちょっと大人しくしてて」
END