Double Face
名前
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-「ママが高い高いしてあげようなあ!」
彼、三毛縞斑には初対面の時から抱っこをされてアワアワとしたものだ。名前は彼と知り合ってから、顔を合わせる度に抱き上げられていた。背が高くて、人懐っこくて自分のことを可愛がってくれる彼に惚れるまでにそう時間は掛からなかった。ある日の授業中、ふと外に視線を向けると体育の授業をしていたのは三年生だった。その中に斑の姿を見つけ、ぱぁっと笑顔になった彼女。陸上部部長の彼は足が速く、スポーツしている姿も輝いていた。授業後、窓から手を振る名前に気付いた彼は猛スピードで近寄ってきてくれた。窓際で斑に頭を撫でられているその姿は、まるで飼い主に撫でられ喉を鳴らしている猫のようだった。「名前さんは今日も可愛いなあ!」何気なく言っているに違いないその台詞ですら、彼女にとっては嬉しくて仕方のないものだった。日常的に彼と絡んでいたせいで、姿を見かけないと途端に不安で寂しくなった。
「ママは明日から暫く海外の姉妹校に行ってくるからなあ!名前さんにはいい子に待っててほしいなあ!」
あれから一週間。よしよしと撫でてくれる彼の大きくて優しい掌の感触を思い出して急に切なくなった。「三毛縞先輩」と呼ぶと「ママって呼んでくれないんだなあ」と残念そうな反応をされたが、好意を寄せる先輩のことを「ママ」呼び出来る者などいるだろうか。レッスンも部活もない日の放課後。ガーデンテラスで休憩している彼女は溜め息混じりに紅茶を飲んだ。遠くからでもよく響く彼の声が聞こえないと寂しくなった。こうして彼を思い浮かべては恋しくなっての繰り返し。そんな時、彼女に声をかけたのがこの人である。「名前ちゃんに会えるなんてラッキーだなぁ」と羽風薫が向かいの席に座った。「今日も可愛いね」と褒めてくれるところは斑と同じなのにどうしてこうも違うものなのか…。デートの誘いを何度も断り続けている名前に、薫は気になっていたことを問いかける。「名前ちゃんはどういう男が好みなの?俺に警戒心持ちすぎだよね」と。
「三毛縞せんぱ…」
「えぇー!?三毛縞くん?あぁいうのがいいの?」
名前は自分の発言を後悔した。もしもこのことが斑に伝わってしまったら自分の気持ちに気付かれてしまう。そう感じたと同時に、自分の好みを否定されムッとした表情になった名前は薫を見据えて反論する。相手が三年生だろうと物怖じしなかった。「誰彼構わず口説く羽風先輩よりも三毛縞先輩のほうが素敵に決まってるでしょう」と。「そんな見境のない男じゃないよ」と眉を下げて呟く彼の背後からこちらに向かって足音が近付いてくるのが聞こえた。ダダダダと全力疾走しているようなその音の主が明らかになった時、名前はふわりと身体が宙に浮いた。そして唐突な温もりに包まれ困惑した。「名前さああん!会いたかったぞおおお!」と騒がしく現れたのは三毛縞斑その人だった。
「薫さん。うちの名前さんと何を話してたんだあ?」
「それがさ、名前ちゃんにデートの誘いを幾度となく断られてるんだよね」
明け透けに説明する薫だったが、うちの子をナンパするなんてママが許さないと言わんばかりの険しい視線で見据えられ、彼は萎縮していた。そして、ついに名前が隠しておきたかったことまで明かされてしまったのだ。「名前ちゃんは三毛縞くんがいいんだって。俺はフラれちゃったわけだよ」と。斑が鈍感であることを願う彼女だが、斑が名前の恋心に気付くわけもなく。「名前さんはママと会えなくて寂しかったんだなあ!ひとりにさせてごめんなあ!」と抱っこされたままぎゅうっと抱き締められ抵抗する気すら起こらなかった。ずっとこのまま彼の腕に抱かれていたいと思った。だが、願ったり叶ったりの結果になった。「よーし!ママとデートしようなあ!」と彼は名前を腕に抱いたまま意気揚々と学院を出ていく。初めてのデートがこんなシチュエーションでいいのだろうかという考えが頭を過ぎったが、こんなチャンスは二度とないかもしれない。と思い直し、彼女は今まで会えなかった寂しさを埋めるように斑の逞しい腕にしがみついて幸せそうに微笑んだ。
END