Double Face
名前
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―「名前さんも、コーヒーが飲めるようになったんだなあ!」
あの頃はいちご牛乳ばかり飲んでいたのに、成長したなぁ。と、その物言いはまるで母親のようだ。仕事後の息抜きに、ガーデンテラスで少し甘めのコーヒーを飲んでいた彼女は、唐突に現れた彼の姿にティーカップに伸ばした手が止まった。何故なら名前は彼、三毛縞斑が苦手である。嫌いなわけではない。彼を前にすると昔抱いていた想いが溢れてどうしたらいいかわからなくなるのだ。要するに、斑は名前の初恋の相手だった。「そんなことで感動しないでくださいよ。三毛縞先輩」と返事をすれば、寂しそうに眉を下げる。
「ママって呼んでくれていいんだぞお!名前さんは昔から呼んでくれないけどなあ!」
「だって、先輩は私のママじゃありませんし…」
ママ呼びするのが嫌で、当時は「斑くん」そう呼んでいた。そんな幼い日々の事を思い出してぼーっとしていると、テーブルの上にずいっと何かを差し出された。「この前、海外に行った時のお土産だ。名前さんは甘いものが好きだと知ってるからなあ!」と眩しい笑顔を見せる彼を、彼女は狡いと感じていた。人に好かれる彼ならば、海外現地の美女達から引く手あまただろうと考えるだけで、ぎゅっと胸が締めつけられた。恋人でもない自分が焼きもちを妬くなんて馬鹿げている。そう思い、ぎこちない笑顔を滲ませば、わしゃわしゃと頭を撫で回された。「なんだか元気がないぞお!どうしたんだあ!?」と。カップの半分ほどの量になったコーヒーに視線を落とすが、それはもうとっくに冷めてしまっていた。
「海外には、私とは比べ物にならないくらい綺麗な女性が沢山いらっしゃったんでしょう?」
こんな拗ねたような言い方をしたくない。好きな人の前で可愛げの無い態度をとりたくない。と自己嫌悪に陥っている彼女を笑顔にさせたのは斑の一言で…。「ママは名前さんよりも可愛い女の子は見たことないぞお!それに、早く名前さんに会いたいという事ばかり考えているし」と瞳を細めて愛しげな視線を彼女に向ける彼に、嬉しいやら、ドキドキするやらで困ったようにへらりと笑った彼女がお礼を告げた。「ありがとう。…斑、くん」と躊躇いがちに彼の名を口にすると、再び大きな手が名前の頭を撫でる。嬉しそうに笑いながら、「そうやって呼んでくれるのをママは待ってたぞお!」と心底喜んでいる様子だ。
「あの頃の名前さんは、将来俺のお嫁さんになると言ってくれたものだが、もう心変わりしてしまったかなあ?」
自分に優しくて、かっこよくて頼りになる斑に懐いていたあの頃、そんな事を口走ったのは事実だった。「そんな事まで覚えてるんですね」と苦笑しつつ本音を告げてしまおうと決心した彼女の心に躊躇いはなかった。「心変わりなんて出来るわけないでしょう。私の夢は変わってませんよ」と。
「ママだって、あの頃から名前さんのことが可愛くて可愛いくて、好きで仕方ないんだからなぁ!お互い様だなあ!」
END
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