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名前
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※当物語には、あんずが登場します。
-「お前もしかして、迷子か?」
夢ノ咲学院の近所の高校に通う名前は、プロデューサーのあんずの親しい友人である。そしてドリフェスが催された本日、彼女はある人物に一目惚れすることになった。講堂に向かおうと足を進めるも、初めて訪れた広い敷地内で迷子になっていた彼女はこの学校の保健医、佐賀美陣と出会った。冒頭の台詞は、教員としての仕事で生徒達の様子を見回っていた彼が、偶然名前を発見した時のものである。不安そうな表情から一変、陣と目が合うと目を輝かせて近寄ってきた。親切に講堂までの道案内をする彼は、一方的に自己紹介を始めた名前に面食らったが、あんずの友人だと知り、不信感が和らいでいた。軽く自己紹介を済ますと講堂に到着した。振り向いてお礼を告げる彼女は、すぐに中に入っていこうともせず、にこにこと陣に手を振っていた。そう…ふたりの出会いはこんなにも些細なものだった。
「来てくれてありがとう、名前。迷ったりしなかった?」
「それがね、イケメンで優しい先生が案内してくれたの。かっこよかったなぁ…」
この時あんずは、名前は椚先生に案内してもらったんだろうな。という臆測をしていたが、後にその考えは覆されることになる。「一目惚れなんて馬鹿げてるかなぁ…?」と、ドリフェスが終了した後に名前と近くのカフェにて合流したあんずはこのような問いかけをされた。テラス席には彼ら以外は誰も居ない。trickstarの誰のファンになったんだろう?と「そんなことないよ」と否定して相手の名を訊ねたあんずは、予想外の名を聞いて目を見開いた。「佐賀美先生…かっこよくて素敵だよね」と。「先生は学院のOBで、元アイドルなんだよ」と説明するも「普段は仕事中にお酒を飲んだりしてるし、教育者としてはどうかと思うよ」という本音を抑えていた。名前がこんなにも惚れ込んでいるのに、幻滅させるのも無粋だと感じたからだ。一方、当の本人はと言えば、既に行動に出ていた。会いたいからといって、簡単に入れるような学校ではない。「ペンキの塗り替えでーす」とペンキ缶片手に門を通っていく彼女は作業服姿であり、すんなりと学院内に入れてしまった事実に驚いていた。
-「あれ?お前どうやって入ってきたんだ…!?」
職員室から保健室に戻ってきた陣は、椅子に腰掛ける人物の来訪に驚きの声を漏らした。彼女はあんずの友人であり、先日のドリフェス時に迷子になっていた少女ではないか。着ていた作業服は脱ぎ捨てており、他校の制服姿なので、彼にはどうやって学院に入れたのか皆目見当もつかない。しかし、名前はお目当ての人物に会えたことで笑顔になっていた。彼は当初、あんずに会いに来たのかそれともお目当てのユニットのアイドルに会いたくてここまで来たのかと推測していたのだが、その考えは盤上ごと覆されることとなった。「佐賀美先生に会いたくて、来ちゃいました」と事も無げにさらりと答える名前とは対照的に、彼は全く状況を呑み込めていなかった。「馬鹿な冗談言ってないで早く帰れ」と、ぶっきらぼうにあしらわれるも、彼女は何ら気にしていないようだ。「お前。名前…とかいったよな?」と自分の名前を覚えていてくれた事に彼女は歓喜していた。
「先生…!私の名前、覚えててくれたんですね」
「偶然だ。そんなに喜ぶ事でもないだろ」
彼に歩み寄り、腕にしがみついた彼女は不敵な笑みで彼を見上げる。突然のスキンシップに動揺し引き離そうとするが、にこにこと嬉しそうな表情を見ると心が揺らいだ。「気が済んだら帰れよ」と、諦めたように苦笑して、彼はベッドに座った。だが、この選択肢はまずかったか。と後に後悔することになる。同じく、隣に座った名前が横から抱きついてきたからだ。「こんなおっさん相手になにしてんだ」と彼女を諌めて椅子に移動した。そうすると不満そうな反応をされ、彼は可笑しそうに笑う。「佐賀美先生はおっさんなんて歳じゃないでしょ」と反論するも「いくつ離れてると思ってんだ」と陣は呆れたように溜め息をついた。
-「いつも思うが、一体どうやって侵入してんだ?バレたら咎められるのは俺なんだぞ」
今日も今日とて、名前は学校終わりに夢ノ咲へと侵入していた。この時間帯はレッスン中なので、アイドル達には見つからないで済む。すべては、想い人の彼に会う為。普通に保健室へ入ってきた名前に、陣は苦笑して冒頭の台詞を述べた。「佐賀美先生!会いたかったー」と猛進してくる彼女は椅子に座る彼に後ろからくっつくような姿勢で抱きつく。「やめろ、名前。スキンシップが積極的すぎる」と彼はあまり効果のない窘めをする。「好きな人には積極的にいくって決めてるので」と耳元で返答が聞こえ、彼は反応に困った。それだと名前が自分に恋愛感情を持っているように聞こえる。彼は何度も、ここへ来るのをやめさせようと言及していたが、名前は相変わらず陣にべったりだ。何故好かれているのかすら分からなかった。
-「お前顔も整ってるし、それなりにモテるだろ?こんなおっさんに懐くより、同年代の男子と恋愛しろ」
-「その感情は恋じゃない。歳上に対する単なる憧れだ」
こんな、よく分からない女子高生にアプローチされたって、佐賀美先生も迷惑だよね。と、保健室を後にした彼女は彼に言われた言葉を思い返しては溜め息を漏らした。窓から見える空は暗く、足早に去ろうとするもそれは不可能だった。腕を掴まれた彼女は足を止めるしかなかった。大きくて無骨な手…視線の先には彼が。「もう遅いし、家まで送るから着いてこい」と彼は駐車場に向かって歩いていく。元人気アイドルが故か、グレードの高い車の運転席に乗り込んだ彼に促され、助手席に座った名前はきらきらと瞳を輝かせた。
「運転してる佐賀美先生もかっこいい。このままお持ち帰りしてください」
「なに言ってんだ。親御さんが心配するだろ」
名前の自宅の前に車を停めると「おやすみのキスしてください」とせがまれたが、陣はぽんぽんと頭を撫でるだけだった。彼女を帰した後、車内が静かになり、名前の言動一つひとつを思い出すと何故だか胸が締め付けられた。「俺に惚れてるわけないだろ。自惚れんな」と雑念を振り払うように彼は独りごちた。彼女が恍惚とした顔で、触れられた頭に手を重ねて余韻に浸っていたとも知らずに…。
To be continued…