リクエスト
名前
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-「夏目くんは俺に対して手ひどい扱いばかりしてくるんですよ」
それはまごうことなき事実であり、この話を訊けば彼女が夏目に抱いている理想も崩れるのではないかと考えたつむぎ。だが、彼の予想とは正反対の反応をみせたのは彼の妹の名前だ。「私も夏目くんに冷たくされてみたい!」と嬉々とした表情で笑う彼女を見て、兄は頭を抱えた。「例のプロデューサーとかいうのに夏目くんが誑かされたりしないようにちゃんと見張っててよね」と詰め寄る名前は心底夏目に好意を抱いている。
「お兄ちゃん。同じユニットなんだから、休日に夏目くんを呼び出す事も可能でしょ?」
「夏目くんとのデート作戦に協力してよ」と上目遣いで懇願してくる可愛い妹を邪険に扱うことも出来ず、彼は苦笑を滲ませた。夏目を呼び出したりしたら「センパイのくせに何様のつもりなのかナ」と言葉で攻撃され腹を殴られるのが目に見えている。だがしかし、妹の前で情けないところを見せるわけにもいかず、悩んだ末に夏目と連絡を取った。送信した内容はこうだ。「夏目くんに会わせたい人がいるので、一度会ってくれませんか?」と。幸いにも彼らは昔、つむぎの両親が経営していたアイドル養成スクールで会っていた。つむぎの妹とはいえ、女の子が再会したがっているということならば彼も断ったりしないだろう。一種の賭けのような、そのメッセージに望んだ返事が返ってくるとは兄つむぎは思いもしていなかった。
-その日、抑えきれない高揚感に満たされていた名前とは裏腹に、夏目はひどく不機嫌だった。あの文章から推測するに、センパイの恋人を自分に紹介するつもりでいるのだろう。 馬鹿馬鹿しい…そう思ったが「彼女も夏目くんと再会したがってるんですよ」というあのメールの内容が妙に心に引っかかっていた。夏目が指定された場所に到着するなり、「夏目くん。本当に来てくれたぁ~」と嬉し泣きしそうな勢いで彼の前に現れた彼女。いくら周囲に視線を向けようとも、そこにつむぎの姿は見当たらない。そんな状況下で、「兄がいつもお世話になってます」と自己紹介をした彼女の台詞に動揺した彼はまじまじと名前の顔を見つめた。雰囲気は正反対であり、顔立ちもあまり似ていない。「センパイとは全然似てないんだネ」と新しい玩具を与えられた子供のように瞳を輝かせ微笑む彼に腕を引かれ、繁華街に繰り出した二人。
「夏目くんと二人きりでお出かけしてるなんて夢みたいだよ」
「子猫ちゃん。もしかしてボクのファンなの?」と問うと「当たり前」と言わんばかりの笑顔でこくこくと頷いた彼女。その反応に、彼は甘酸っぱい感情が心に広がるのを感じた。カフェに入った彼らは向かい合って会話を交わしている。アイスティーを飲んでいる彼女がふと、何かを思い出したように口を開いた。だが、その話題は彼にとっては触れてほしくない過去でもあった。「昔ね…。アイドル養成スクールで夏目くんと出会ってた筈なんだけど、私の記憶の中だと夏目ちゃんは女の子なんだよね」
「あの頃は母に女装させられてたし、仕方のない事だヨ。それに、当時の出来事…。生憎だけド、名前と出会った時の事もあまり覚えていないんダ」
「でも、幼い日の子猫ちゃんが可愛かったということは記憶しているよ」と事も無げにさらりと言ってのける夏目に、彼女はただ頬を赤く染めていた。アイスコーヒーをくるくると搔き混ぜるストローにかかるしなやかな指先にですら惚れ惚れと見惚れてしまう程に彼女は彼に夢中だった。そう、この人物の来店に気付かないくらいに…。
「アメージング!デート中の夏目くんに会えるとは、今日も世界は愛と驚きに満ち溢…」
五奇人の一人、日々樹渉の台詞を遮ったのは、名前ではなく夏目であった。「いくら渉にぃさんといえども、ボクらはデート中なんだから邪魔しないでよネ」と悪戯っ子のように唇に弧を描いた彼を名前が心配そうな瞳で見つめていた。「私は夏目くんの彼女じゃないって否定しなくていいの?」とでも言いたそうだ。名前がつむぎの妹だと渉にバレたらややこしいことになると察した彼は席を立ち、牽制するように彼女の隣に腰掛けた。彼女の方にちらりと向けられた視線が今度は渉に向けられ、「可愛い恋人とキスするつもりなんだから、にぃさんは席に戻ってヨ」と、冗談にしては過激な冗談だ。嘘で言ったのだと分かっているのに、なに期待してるんだろうと嘲笑した名前は唐突に顎を掬われ、淡い桃色に色付いた唇は夏目のそれと重なった。
「名前は、ボクの魔法にかかりやすいみたいだネ」
「私が夏目くんの魔法から解けることなんて永遠にないよ」
END