クリスマス
名前
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―許嫁とはいえども、暫く彼に会えていなかったのだ。煌びやかなドレス姿で立ち尽くす名前の視線の先には、大勢の令嬢達に囲まれている朱桜司がいた。彼こそ、彼女が最も会いたかった相手である。兄と同じ夢ノ咲学院でアイドルをやっている彼が女性から人気があることなど分かっていた筈だった。それでも嫉妬心が込み上げ、切なくなってくる。そんな名前の肩を抱いた人物こそ兄の天祥院英智だ。
「女性に囲まれてたのに、よく抜け出せたね」
「可愛い妹を一人にさせたくないからね。朱桜くんはそういう話術もないだろうし、助けに行ってくるから待っていて」
兄と共に戻ってきた司に一言。彼女からすれば余計な言葉だったが、告げられる。「名前が焼きもちを妬いていたみたいだよ。あまり寂しがらせないであげて」と。
「名前さんにご不満な思いをさせてしまい、申し訳ございません。私はknight失格ですね」
「気にしなくていいよ、司くん。それから…兄様はいつまで私達を見張ってるつもり?」
英智が離れると、彼女の腰を抱き寄せた司が褒めてくれた。「今夜の名前さんも一段と美しいですね」と。重なった所から彼の体温が伝わる。「久しぶりに会えて嬉しい。ずっと会いたかった」と恥ずかしげに告げれば司は微笑んでぎゅっと抱きしめてくれた。やがてダンスホールへと繰り出した彼らは、ワルツのリズムと共に軽やかにステップを踏む。私の許嫁はなんてかっこいいのだろうかと名前はポーっと司に見惚れていた。周りの人々がダンスに夢中になっている今こそチャンスだと、彼女は思い切った行動に出た。司が顔を寄せた瞬間に、一瞬触れるだけの口付けを交わしたのだ。驚いてぱちくりと瞬きする彼の前で、名前は口角を上げて微笑んでいた。許嫁の司と何も進展がないのが不満だった故のものだった。しかし、司は焦燥したように彼女の耳元で呟く。「天祥院のお兄様が近くにいらっしゃるのに、見られていたらどうするおつもりですか?」と。
「誰も気付いてないよ。それにクリスマスなんだから、これくらい許されるでしょ?」
「クリスマスは関係ないと思いますが。名前さんが望むならば、仰せのままに…」
踊り終えて司に手を引かれその場を後にするふたりだが、聖なる夜はまだ始まったばかりだ。後に司は自分の発言を悔やむことになる。ふたりきりになった途端、「今夜は朱桜邸に泊まってもいいでしょ?」と提案されたからだ。名前のことだから同じ部屋で、同じベッドで寝ると言い出しかねない。許嫁といえども、そこまで踏み入ってしまうのはいけないのでは?と彼は思っているのだが、彼女は気に止めていないようで積極的に司にアプローチするばかりだ。だが、腕を組んで歩き出そうとした彼らの前に立ち塞がった人物がいる。名前の兄の英智だ。「朱桜くんは、僕の名前をお持ち帰りするつもりなのかい?」と問われ、司は固まった。一方の名前は何故兄が怒っているのか分かっていなかった。
「いいえ。お持ち帰りなんて滅相も無い」
「えー。望むならば仰せのままに。とか言ってたくせに酷い」
名前がずるずると英智に連行されていく。まるでドナドナされる仔牛である。車の中で唇に触れながら余韻に浸っていれば、「消毒」と言われ英智にキスをされ、ついに名前が憤慨した。「怒った名前も可愛い」と英智が褒めても、彼女はしかめっ面のままだったとか…。
「私の方からキスしたんだから、司くんのせいじゃないのに」
「名前にキスしてもらえるなんて贅沢すぎるからね」
END