逆先夏目
名前
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※中学時代の設定となっています。
―「夏目はモテるね」
彼の下駄箱の中には案の定、いくつものチョコが入っていた。お察しの通り、本日はバレンタインデーだ。逆先夏目は名前の幼馴染みであり、想い人である。隣に居る彼は全く嬉しくなさそうに、その箱を鞄にしまっていた。自分以外の女子からチョコを貰う夏目を見て、本当は嫉妬に狂いそうなのだが、気丈に振舞う彼女の表情は切なげだ。そのまま教室に向かって足を進めるが、名前は先程の出来事が気がかりで夏目と一言も喋れずにいた。
「名前もそのチョコ誰かに渡すノ?」
彼が一瞥した名前の持っている紙袋の中にはチョコが入っているのが窺える。それは全て女子同士で交換する予定の所謂「友チョコ」というものだが、その質問にこくりと頷いた彼女の反応に、彼は内心戸惑っていた。名前の好きな相手なんて訊いた事もなければ誰なのか予想も出来ない。もし、自分にくれるものならば学校に着くまでの間に渡されていた筈。そうじゃなかったという事は即ち、自分以外の男へ贈る物。
――「今日は、女の子が好きな男の子にチョコをあげる日なんだよ」――
女友達とチョコを交換している彼女を見つめる彼は幼い頃、初めて名前からチョコを貰った日を思い出していた。「ボクのこと好きなノ?」と訊けば、満面の笑みで「夏目くん大好き」と答えてくれたあの頃を懐かしく感じて胸が苦しくなる。
―「逆先くん、話があるんだけど…」
放課後、隣のクラスの女子に呼ばれて夏目が教室を出ていくのに気付いて、名前は嫌な予感を募らせながらも屋上へと向かう二人の後をつけていった。扉から出ていく彼らに気付かれないように死角になっている壁際に座り込んだ。扉を開けたら追ってきたのがバレてしまう為、なす術もなく踵を返して教室に戻る彼女。机に伏せ、泣きそうな衝動を抑えている彼女の肩を優しく叩いた人物こそ、告白をされていた筈の逆先夏目で。
「隣のクラスの娘から本命チョコ貰ったんでしょ?」
彼ら以外は誰も居なくなった教室に、涙声のように震えた名前の問いかけが響く。「見てわからなイ?」と、呆れたように苦笑を滲ませた彼は何も貰っていないと証明するように両手を開いてみせた。それでも納得していないのか彼女は怪訝な表情のままだ。そんな名前に悟らせる為に夏目は腕の中に彼女を閉じ込めた。
「全然喋った事もないボクを好きだなんて、あの娘もどうかしてるよネ…」
「でもあの娘、私よりも可愛いし…」
私よりもあの娘のほうがお似合いだよ。という言葉は、更に強く抱きしめられたお陰で続く事はなかった。ドキドキと心臓は落ち着かないのに、彼の温もりを感じて心地良い。そして、おずおずと名前の腕が夏目の背中に回された。しんと静まった空間の中で夏目の声だけが彼女の鼓膜を震わせる。
「ねぇ、まだ名前から本命を貰ってないんだけど」
ボクはチョコよりも名前が欲しいな。と、ついに本音を吐露した夏目の手がうなじに添えられた。彼の唇が瑞々しく桃色に色付いた名前の唇に重ねられ、吐息さえも奪うように深い口付けに発展した。
「ふァ…っ。夏目…っ」
「そういう可愛い反応されたら食べたくなっちゃうヨ」
羞恥に頬を染め上げた彼女の手を引いて帰路に着く彼は、言葉少なに家路を辿る。自然な流れで名前を自宅へと招き入れた彼は、甘く誘うようにベッドの上で「おいで、子猫ちゃん」と名前を手招くのだった―
END