バレンタイン
名前
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※中学時代
―「あ~あ。やっぱりこんなの作るんじゃなかった…」
帰り道にある公園に立ち寄った彼女は、そう独りごちて真っ直ぐにゴミ箱に向かって歩いていく。その手には綺麗にラッピングされた箱が握られていた。昨夜、あんなに張り切って作ったものだったのに…と、感傷的な気分で何だか泣きたい衝動に駆られる。ふと脳裏を過ぎる彼の姿。想いを寄せる彼がモテることなんて分かっていた。幼少時代から仲がいいとはいえ、所詮自分は友達でしかないのだと。名前が初めてバレンタインにチョコを贈った相手が漣ジュンだった。現在、彼はクラスメイトである。そして、その初恋の相手に数年越しに本命チョコを渡そうと計画していたのだが、紙袋いっぱいにチョコを携えていた彼を目撃し、その計画は断念せざるを得なかった。「捨てちゃお捨てちゃお」とゴミ箱に投げられたそれは箱に入ることなく想定外の人物が既のところでキャッチした。
「何やってんすか。これゴミじゃないでしょう?」
「いいの。そんなの渡せないもん…」
唐突に現れたジュンの姿に瞠目し、足がすくんで動けなくなった。逃げ出したいのに逃げだせない。そんな名前の心境をよそに、歩み寄ってきたジュンは彼女の頭にぽんと手を乗せた。「ほっといて。とでも言いたげな顔っすね。そんな頼みは聞いてあげませんけどねぇ…」と涙を堪えている彼女の目の前でジュンは困ったように苦笑した。わしゃわしゃと髪を撫ぜる彼を直視出来ないとばかりに彼女は視線を背けた。寒い時期だからか、公園の遊具には人気がない。早くこの手をどけてくれないと心が潰れてしまいそうだった。それくらいジュンの存在は名前の心を締め付けていた。「これ、本命チョコなんでしょう?」と手にしたそれを一瞥して彼が確信をついてきた。何も答えないその様子は肯定しているようなものだった。だが、彼は決して誰に贈るものだったのかなんて訊くことはしなかった。
「嫉妬なんて醜いものだって分かってはいるんすけど、名前から想われてるその男にはどうしても嫉妬しちまいますよ」
「ま、これは俺が頂きますけど。文句ないっすよねぇ。捨てようとしてたんだし」と荷物を持ち直し、名前が作ったチョコだけは袋に押し込むことなく大切そうに握り、彼女に背を向けて立ち去ろうとする彼。真実を知らないほうが互いにとっていいのかもしれない。それでも、咄嗟に呼び止めてしまった衝動は間違いではないと思いたい。「待って!」と彼の制服の裾を掴んだ彼女の瞳には、涙の膜が張っていた。
「それ、本当はジュンくんに…。いや、なんでもない…」
「昔は素直にチョコくれましたよねぇ…?これじゃ俺が泣かせてるみたいじゃないっすか」
END