バレンタイン
名前
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―三奇人の一人である朔間零先輩には、私が作曲をする際にとてもお世話になっている。何かお礼をしたいと考えていた矢先、今月最適なイベントがあると気付いた。
「ねぇ、凛月くんのお兄さんって甘いもの好き?」
「俺は甘いもの好きだけど」
なんで兄者の好みなんて訊くの?と寝起きの彼からの不思議そうな視線が私に向けられる。クラスメイトの兄に贈り物をするなんて不自然に思われても仕方ない。
「零先輩には日頃からお世話になってるからお礼がしたくて」
「なぁんだ…そんなの気にしなくていいのに」
話が脱線して、終いには彼に膝枕を頼まれる始末だ。肝心の零先輩の情報は殆ど手に入れられなかった。こうなったら自分で贈り物を考えるしかない。
「手作りは…やめとこう」
ショッピングモールのバレンタインコーナーの前で人知れず悟った。義理とはいえ、私はアイドルに贈り物をしようとしている。それなら…手作りなんて不審なものあげられるわけがない。彼の瞳の色を彷彿とさせる、赤いハート型の箱を手にした私はそのままレジを済ませた。
―日頃のお礼も兼ねて。なんて口実を使ってチョコを渡す事に成功したはいいが、棺桶の上に腰掛ける彼と密室に二人きりという状況を把握して妙な緊張感に呑み込まれていく。
「手作りのものなんて微妙だろうと思って、買ったものにしたんです」
―「気遣いは有難いが、どうせなら嬢ちゃんが作ってくれたものがよかったのう」
相変わらず…おじいちゃんの様な喋り方をするなぁ。なんて思っていたら、彼の大きな手で頭をポンポンと撫でられた。完全にキャパオーバーの私とは対照的に、彼は余裕の表情で目を細めて微笑みを浮かべている。
「こんな老いぼれ相手に、大層なプレゼントじゃのう」
「零先輩…まだ若いんですから、そう言う事仰るのやめて下さいよ」
三年生よりも一つ歳上なのだろうが、決して年寄りではない。こういう一面も含めての奇人なのだろうが、頻繁に彼と接する内に慣れてしまったようだ。
「先輩はUNDEADのリーダーですし、沢山のプレゼントが届いたのでしょう?」
「なんじゃ。嬢ちゃん、焼きもちかのう?」
焼きもちなんて…そんな大それた感情を抱いていいのだろうか。彼は私なんぞが好きになっていい相手ではない。それでも、靄々とした想いが胸に募っているのは確かだ。
「嬉しい事に、嬢ちゃんからの贈り物が一番乗りじゃよ」
「それなら、零先輩が起きるのを待っていたかいがありました」
誰よりも早く、一番近くで、彼の喜ぶ顔が見られた私は幸せ者だ。自然と私の顔にも笑顔が浮かんでいた。しかし、未だに恐縮している私に追い討ちを掛けるかのような言葉が耳に響いた。
「嬢ちゃんの手で、このチョコを我輩に食べさせてくれぬかのう」
END