バレンタイン
名前
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―私の想い人は自称吸血鬼だ。陽の光が苦手で明るい内はいつも寝ている。ある昼下がり、学院の庭園を散歩していると見つけた彼の姿。またこんな場所で寝ている。
「安眠妨害は出来ないな…」
真緒くん程ではないが、どうしても凛月の世話を焼きたくなる。彼を無理矢理起こすと不機嫌になるのは承知済みなので起こさず、その寝顔を覗きこんだ。無防備に寝ている彼の寝顔はあどけなさを残している。そんな彼の隣に寝転がって晴れた空を眺めていたら、いつの間にか彼の腕に拘束されていた。要するに、抱き枕代わりにされている。
「無意識なんだから…質(たち)が悪いね」
隣に眠る彼の髪を撫でて小声で皮肉めいた言葉を囁いた。熟睡している彼は起きる素振りがない。こんなに近くに居られるのは幸せな時間なのだけど、彼が私を想っていなければ意味がない。抱きしめられているのに、胸が切なくなる一方だ。私の気も知らないで寄り添う凛月は残酷だ。
◆◆◆
―「あれ…なんで名前が此処に居るの?」
日が傾いた頃に、漸く目覚めた彼の眠たげな視線が向けられる。至近距離で視線が絡まって胸が早鐘を打っている。彼の腕が離された今、若干の淋しさが募る。
―「こんな所で寝てるから心配で、隣に居たんだよ」
本当はそれだけが理由じゃない。しかし、何も言えずにうっすらと笑みを浮かべた。視線の端には彼に渡す筈のチョコレートの箱が。今がチャンスだと頭では分かっているのに、行動に移せない。今更何を恥ずかしがっているのだろう…。彼は視線を外さずに私からの言葉を待ってくれている。
「名前なら本命チョコくれると思ってたけど、俺の勘違いだったみたい」
拗ねるような口調で告げられた言葉。思わず耳を疑った。少しでも期待してくれていただけで嬉しいのに、それ以上を求める私は欲深だろうか…。
「凛月に本命チョコ渡したい女の子なんていっぱい居るだろうね」
胸の切なさをひた隠して、ぎこちなく微笑む私を抱き寄せた彼からの一言で涙が溢れ出した。「名前のだけしかいらない」と、涙が伝う頬に舌先が触れた。
「名前の涙は少ししょっぱいね」
「涙が甘い人なんて居ないでしょ」
血が甘いから涙も甘いなんて、そんなわけない。そもそも、私の血を甘いと言って好んでいる彼も良く分からない。そんな事よりも、本命チョコを渡すのに成功した事が重要だ。ハート型の箱が彼の手に握られている。
「チョコもいいけど、俺は名前が欲しいんだよね…」
妖しい囁きと共に私の手を引いて歩き出した。言うなれば、私は吸血鬼に魅せられた一人の女だ。薄暗い彼の部屋の扉が閉められ、見据える紅い瞳は情欲に満ちていた。
「名前、このチョコを口移しで食べさせてよ」
貴女以外はいらない―
END